仲建築設計スタジオが語る
「五本木の集合住宅」
「写真家のスタジオ付き住宅」
への熱い想い

撮影 鳥村鋼一

今回CLASS1 ARCHITECT Vol.05で特集した「五本木の集合住宅」「写真家のスタジオ付き住宅」を手掛けた仲建築設計スタジオ。どちらも「住む」と「働く」をシームレスに混ぜて、周囲の人たちとの関わりを重視する建築となっている。今回は、仲建築設計スタジオの共同代表である仲俊治氏、宇野悠里氏へのインタビューの中で、誌面に掲載できなかった話をいくつか紹介したい。

本誌の記事はこちら

LIMITED STORY #01
「地域社会圏」の実践を自分たちで試みた「五本木の集合住宅」

一つ目に紹介した建築「五本木の集合住宅」は、両氏の自宅兼事務所となっている。この建築のコンセプトになっているのが、「地域社会圏」という考え方。仲氏が大学院卒業後に師事していた建築家の山本理顕氏とともに研究を行っていたことが、この考え方に至るきっかけだった。

「地域社会圏」とは、「見世(みせ)」と呼ばれる外向きの場所を住宅に併設することで、地域コミュニティ全体が助け合える空間になること。住宅に併設する外向きの場所は、営利目的の真面目な仕事とは限らない。アトリエやたばこ屋をつくったり、家の前を掃き清めたりなど、近隣住民とのコミュニケーションや周りの人への気配りが生まれる場をつくることを目的としている。

仲氏は、地域社会圏モデルを取り入れることで、家族で“住むだけ”になっている現在の住宅の可能性を広げることができると考えているという。

地域社会圏モデルを建築として初めて体現した「食堂付きアパート」
地域住民が集いコミュニケーションが生まれる場となった

その考え方を建築として初めて体現したのが、仲建築設計スタジオが設計し、2014年3月に竣工した「食堂付きアパート」だった。地域住民が気軽に利用できる開かれた食堂を併設したアパートで、アパートの住民が食堂のシェフとして料理を提供。地域住民が集いコミュニケーションが生まれる場となっている。

「五本木の集合住宅」は、このような「地域社会圏」のライフスタイルを、誰かに提案するだけでなく自分たちでも実際に試してみよう、という思いで設計したという。両氏は2人の子供を育てていたため、この建築において「地域社会圏に基づいて設計した住宅に住むことは、子育てにどのような影響を与えるのか?」という、地域社会圏モデルに対する問いも含まれていた。

子どもたちの気配も常に感じられることは安心感にも繋がっている

この住宅で2年ほど過ごしたが、やはり働くことと子育てが繋がる空間は、シンプルに「働きやすい」という。
日中、働きながら自分の暮らすまちの様子がわかり、自分の子どもたちの気配も常に感じられることは安心感にも繋がっている。

また、今までは誰かに提案するだけだった「外部とコミュニケーションが生まれる建築」というものを、自分自身で暮らしながら実感している。例えば、地域の子供たちとのコミュニケーション。「うちの子に直接用がないときでも、家に来ることがある」という。

一番わかりやすいのは、子供の友達がたくさん出入りしますよね。単純に中が見えるから入りやすいのだと思う。
「ケガをしたから絆創膏がほしい」とか「お母さんが家にいないからここにいさせて」とか。
「あそこにはいつも人がいるし、行けば何とかなる」という交番のような感じなのだと思うけど、こちらとしては街も生活圏の一部といった感覚で、むしろ安心感がありますね。(宇野氏)

「五本木の集合住宅」は、現代では失われつつある、周囲の人々や環境との関係を結び、地域の拠り所としての可能性を秘めた建築。今後もその動向には注目していきたい。

LIMITED STORY #02
外部のあらゆる環境を尊重する
撮影 鳥村鋼一

そして、本誌で紹介したもうひとつの建築が「写真家のスタジオ付き住宅」だ。世界的なフォトグラファーである施主は、元々「食堂付きアパート」の近隣住民だった。お客としてよく食事に来ていたことがきっかけで知り合い、設計の依頼に繋がったという。施主からの要望は、「来客は頻繁にあるが、まったりしすぎるのも良くないため緊張感がほしい」というもの。その思いを根幹に、住むエリアと働くエリアの中間となるような建築がうまれた。

確かに施主の要望もあったが、桜や楓などに彩られた美しいこの土地に、住むエリアと働くエリアを完全に分けた建築をつくることで“人間の表と裏のようなものを持ち込むのは不適切ではないか”と思った。(宇野氏)

土地を見に行ったら、本当にびっくりするくらい美しい場所だった。木がたくさん生えていたので、“後から来た者だし、滑り込ませてもらおう”ということで木の間に建てるように設計しました。(仲氏)

これらの会話の中で、「人間の表と裏を持ち込むのは不適切ではないか。」「後から来た者だし、すべりこませてもらおう。」など、まるで、自然を“住民の隣人”として扱っているような言葉が使われており、ふたりの話からは長年その場に生存している自然への敬意が読み取れる。

撮影 仲建築設計スタジオ
本誌でも紹介した、写真家のスタジオ付き住宅の全体模型図

本誌でも紹介したようにこの建物の一番の特徴は、「立つ」「じっとする」などの所作に応じて建物内が分けられていること。

例えば、桜が綺麗に咲く場所は、立って高窓を覗くことによって、中から美しい桜を楽しめるようになっており、あえて立ち仕事をしたくなる空間をつくった。また、やや傾斜がついている場所では、そこで寝転がって窓の外を見ると、どこまでも続くような広大な緑が視界いっぱいに広がる。

そして、秋になると真っ赤に紅葉した風景へと移り変わるのだ。四季の美しい移ろいが感じられるこの土地の良さを活かし、自然と最大限に共存できるような設計が実現した。

また、施主が写真家であったこともあり、住宅の完成後は、その日その日の住宅の景色を写真で送ってくれるという。木々の間に滑り込ませるように建てられたことで、木の中に屋根だけが浮かんでいるような写真が送られたこともあり、その写真は特に印象に残っていると、仲氏は語ってくれた。

LIMITED STORY #03
「建築が暮らしかたをつくる」
新しい住宅のかたち
撮影 鳥村鋼一

「五本木の集合住宅」は、地域住民との間にコミュニケーションが自然と生まれる心地の良い空間をつくる建築になっていた。

また、「写真家のスタジオ付き住宅」は、住むと働くをシームレスに繋げると同時に、その土地にある美しい自然を尊重し、日々移りゆく自然を楽しめるような建築が目指されていた。

様々な建築物の設計に携わり、外に開いていく住宅をつくる中で「人は一人では生きられない」ということを実感してきたというおふたり。仲建築設計スタジオの手掛ける住宅は、どこか閉鎖的な住宅観を持つ今の時代に必要な、住民の生活や社会関係をつくる建築の可能性を見出してくれている。

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