建て替え期を迎えた公共施設。
求められるのは、「住民の安心感」
CLASS1 ARCHITECT Vol.06で紹介した、カワグチテイ建築計画の設計による「市原湖畔美術館」。ここで使われた建材として紹介したのが、菊川工業株式会社の大型折戸「しゅもん」だ。市原湖畔美術館の「しゅもん」は意匠性の高いガラスタイプの折戸で、美術館の多目的ホールと屋外公園をつなぐ役割を果たしている。今回は、菊川工業のKCT建材部次長 奥野木宏一氏への取材から、本誌に掲載できなかったお話を紹介したい。
LIMITED STORY #01
「せんだいメディアテーク」での採用が好評となり、注目を集めた
菊川工業がドイツのガートナー社と提携し、「しゅもん」を扱いはじめたのは1993年から。しゅもんの転機になったのは、2000年に竣工した伊東豊雄氏設計の「せんだいメディアテーク」だった。ガラス折戸に「しゅもん」が使われたことで大きな注目を浴びた。
実は今回の市原湖畔美術館での採用も、鄭氏が「せんだいメディアテーク」で使われた「しゅもん」を見たことがきっかけだった。鄭氏は設計の早い段階から、「しゅもん」を使おうと考えていたという。
奥野木氏も、「伊東先生があれだけ素晴らしい設計をされて、しゅもんを採用していただいたことが我々にとって非常に大きな転機となりましたね」と、「せんだいメディアテーク」の影響力を実感している。
LIMITED STORY #02
現代の公共施設の新常識に?
「中が見える」という安心感
「中が見える」という安心感
その後、着々と採用を増やし続けた「しゅもん」だが、特に今、問い合わせが多いのが消防署などの公共施設だという。なぜ消防関係なのか、その理由はしゅもんの3つの特徴にあるのではないかと奥野木氏は語る。
まず1つ目に、耐久性が高い点が挙げられる。一般的に消防署などに使用されているオーバースライドドアと比べ、堅牢性が圧倒的に高くなる。1日数十回の開閉にも耐えるため、消防車や救急車の出動のたびに開閉を行っても問題ない。そのため、大型の車両が頻繁に出入りするような消防署や郵便局、工場、倉庫などとは相性が良い。
2つ目の特徴は、電動開閉と手動開閉をすぐに切り替えられる点。台風などの自然災害時、停電時などはもとより、万一のトラブルや故障の際も、簡単に手動開閉に切り替えて運用することができる。緊急車両の出動時の妨げにならず、有事においても平時と同様に動かすことが可能となる。
そして3つ目のポイントは、「表面がガラス張りになっている」こと。ガラス張りの折戸は現代的な建築デザインと調和することはもちろんだが、折戸を閉めた状態でも建物の中が良く見え、開放感があるところに強みがある。例えば消防署などは、今はオーバースライドドア(シャッター)仕様のものが多い。しかし、オーバースライドドアは閉めると消防署の中が隠れ、見えなくなってしまう。その点全面ガラス張りの折れ戸仕様である「しゅもん」は、閉じた状態でも中の消防車や救急車がオープンに見える。そうすることでデザイン性だけでなく、住民に「開かれている安心感・心強さ」も与えることができる。
「正面を閉めておくと住民に対しての見栄えが悪い」。けれども、「開け放しにしておくと、消防服や装備などの盗難の不安がある」。そのような現代の公共施設が抱える不安を、閉めていても、消防車や救急車を外から見られることで解消し、住民にとって安心できる施設と地域をつくっている。
LIMITED STORY #03
在り方が変化する、
新たな公共施設の“顔”に
新たな公共施設の“顔”に
菊川工業が「しゅもん」を取り扱い始めて30年弱が経過しているが、奥野木氏によれば「今は、消防署などの公共施設の建て替えが頻繁に起こるタイミングにきている」という。現在は築50年を超えるような公共施設が溢れており、また、消防署自体にも変化が起きている。例えば、消防員数が徐々に減少し、消防車が昔よりも大型化している。そのため、消防署の扉も大型化・高さがあるものでないと対応できなくなっているという。これらの建て替え・大型化への流れが「しゅもん」採用の追い風となるのではないかと、奥野木氏は期待している。
新しい消防署は、造り方も昔と違って変わってきたなという印象を受けます。その変化に応えられるよう我々も、PRやコストダウン面に力を入れ、「しゅもん」の良さをぜひ知っていただきたいと思っています。(奥野木氏)
現代的な建築デザインにも調和するデザイン性と、建物の広い開口部も守る堅牢性。そして、地域に安心感を与える開放性を兼ね備えた「しゅもん」が、新しい時代の公共建築の顔になっていくかもしれない。