地域の新しい居場所を担う大屋根空間
01. 陸前高田市立高田東中学校
木の大屋根に包まれた、みんなの新しい居場所
最初に紹介する岩手県「陸前高田市立高田東中学校」は、東日本大震災で被災した3つの中学校を統合したものである。陸前高田市は被災地のなかでも公共施設の復旧に遅れがあり、住民の日常的な居場所が不足。そのため、設計にあたり学校としての機能だけでなく、地域の人々に開かれた居場所として新しい役割を担うことが要望にあげられていた。雄大な広田湾をのぞむ眺めの良い高台からは、りんご畑やゆるやかな勾配の段々畑が広がる。はじめてこの地を訪れたSALHAUSの日野氏・栃澤氏・安原氏は、「この場所に一目惚れしてプロポーザルへの参加を決めた」という。
設計プロセスにおいては、2016年10月の竣工までに4年弱の月日をかけてさまざまなワークショップを開催。生徒や教員、地元住民と対話を重ねながら「着実に復興に向かって前に進んでいる」イメージを共有することで気持ちが一つにまとまり、新校舎が地域のなかで果たせる役割を捉え直す機会となった。
どこの場所からも海が見える校舎は、敷地の傾斜を利用した2層構成。図書室や多目的ホールをアクセスの良い大きなエントランスに配置することで、地域の住民に開けた空間となった。一方で校舎の各所には小規模なプライベート空間もつくり、さまざまな環境下の子どもたちの拠り所としても使われている。
特徴的なのは、建物全体を覆う「大きな木の屋根」。緩やかな懸垂曲線を描いた大屋根は陸前高田特有の海と背景の山並みに寄り添うように架け渡されており、まさに”復興のシンボル”となるランドスケープをつくり出した。
陸前高田市立高田東中学校
所在地 / 〒029-2206 岩手県陸前高田市米崎町和方130-1
設計 / SALHAUS
撮影 / 吉田 誠