【無垢材 (気仙杉)】
「陸前高田市立高田東中学校」で採用された屋根架構は、木材に張力を導入することで緩やかな懸垂曲線を描いている。陸前高田市は沿岸部でありながらも冬は積雪があるため、屋根荷重を考えながら、東京大学の佐藤淳准教授とともに構造の実験を重ねた。通常、ロングスパンを架け渡すには大きな部材が必要となり集成材を用いることが多い。しかし、テンションをかけることで小さな部材でも可能となるため、幅180mmxせい60mmの小断面材を2段重ねることで最大23mのスパンを実現した。使用した「気仙杉」の無垢材は杉のなかでも特に柔らかい性質を持つ。建材としては弱点になることもあるが、今回はその性質を大いに活かした建築となった。また、無垢材を使うことで、節や色味の違いなど、木の質感を感じられる空間となっている。
以前、私たちが設計に携わった「群馬県農業技術センター」でも藤寿産業さんと一緒に張力を導入した懸垂曲線の屋根架構を手掛けたことがありました。そんな先行事例があったことと、「気仙杉」の産地での建築だったことから、同じような工法で木の屋根架構ができるのではないかと考えました。藤寿産業さんは全国の木材を扱い、さまざまなノウハウをお持ちなので、何でも相談できる心強い存在です。
建材開発秘話
渡邉 宏さん
斬新な大屋根デザインに全力で向き合う
今回の陸前高田市立高田東中学校の校舎では、「気仙杉」の無垢材を用いて大屋根をつくる案件を受けました。実はこの依頼を受けた設計は、過去にSALHAUSさんと群馬県農業技術センターで採用した工法から改良されたものでした。農業技術センターの屋根架構は網目状に組んでいたのですが、今回はストレート状に屋根の下側をたわませるという構造。過去に類似の実績はあったとはいえ、課題は沢山ありました。特に納まりについては、非常に難しく、スタッフと実物大のモックアップを作製しながら、一つひとつ丁寧に確認を行い、設計上の計算と実物大のものを比較調整していきました。
「入念な下準備」は欠かさない
屋根架構のモックアップ作製では、一つひとつの過程において丁寧な検証が不可欠だったんです。「どのくらい引っ張ると、理想のたわみとなるのか?」「引っ張る力の加減はどのくらいがいいのか?」など、設計と実際のものを比較するところからはじまりました。木材は、鉄などとは違い生き物なんです。それぞれに個性があり、1本1本違うため、曲がりにくいものや強度のばらつきが発生します。その度に木材の沈み方をスケールで測定し、均一ではない木材の強度を一定に保つという「下準備」を入念に行いました。時間をかけてこのモックアップを作製したことで、現場施工が驚くほどスムーズにいった点は、私たちの励みとなりました。
地産材で”復興のシンボル”を
私たちの会社は福島なので、今回の中学校新設に携われたことには、胸が熱くなる想いがありました。東日本大震災では多くの家屋が流され、施工当時も仮設住宅で暮らしている方が沢山いらっしゃったので、「できるだけ早く造らなくてはいけない!」と思ったのです。そのなかで、温かみのある地元の気仙杉をふんだんに使い、被災地の人たちに寄り添えた校舎に仕上がったことはとても良かったと思っています。そして、被災地の方、SALHAUSさんの想いを受け止め出来上がった「復興のシンボル」と呼んでいただける大屋根の施工に携われたことは、今でも誇りに思います。
藤寿産業と手掛けた「屋根架構」の特徴
全国各地の木材に精通しており、建築物に合わせた木材を提案。中・大規模木造建築においては600棟以上の納入・施工実績を持つ。
構造設計士や施工管理士、木造建築組立等作業主任者など木造建築のプロフェッショナルが建築家のニーズに応える。
今回の屋根架構は小断面の製材を使用したことで材取りが容易に。この技術により、今後、木造の公共建築において地元産材普及の促進が期待される。
〒963-0724
福島県郡山市田村町上行合字西川原35(郡山中央工業団地内)
TEL:024-944-7550
FAX:024-943-3878
https://toju.co.jp/