建築は、建築家を中心に、構造家・CADオペレーター・職人といった、さまざまな方々の協力によって成り立っています。今回は建築家の中川エリカ氏に、信頼している現場監督の方をご紹介していただきました。

─ 中川さん、信頼している現場監督を紹介していただけませんか？

箱根建設株式会社の高緑一行（たかみどり かずゆき）さんを紹介します。

高緑さんには「桃山ハウス」の現場監督を担当していただきました。

─「桃山ハウス」で印象深かったことは？

「桃山ハウス」は、高緑さんでなければ実現しなかったと感じます。まず驚いたのは、図面の読み込み具合。高緑さんが作られた見積書一式を見た時に「こんなに図面の意図を汲み取って見積もりしてくださる監督がいるのか」と驚嘆したことが、鮮やかに思い出されます。

見たことのないものをつくることに対する興味、情熱が、項目の細かさから伝わってきたのです。この見積もりをしてくれた方がそのまま監督としてやってくださるなら、ぜひお願いしたいと思い、お施主さんにプレゼンして高緑さんに現場監督をお願いしました。

─ 中川さんから高緑さんへメッセージをお願いします。

初めて高緑さんにお会いしたのは、見積もり図渡しの時だったと思います。その時に「見たことのない建築だ。きっと歴史に残る。でも、つくれる自信がない」と率直な感想をおっしゃって頂いたのが昨日のことのようです。

前例のない建築へ向かう現場中は、様々な困難がありましたが、特に困難を極めたサッシの打ち合わせの際には、業者さんを含めた勉強会を開いたり、取り合いの確認をするための模型を現場で作ったり、建築を生み出す困難と喜びが渾然一体となったとても貴重な体験をさせていただき、感謝しています。

「桃山ハウス」の現場での経験が、今の私の建築の礎になっていることは間違いありません。この場を借りて、お礼を申し上げます。

─「桃山ハウス」で、印象的だったことを教えてください。

まず、見積を始めるために図面を見たときに何が書いてあるのか分からず、これは建物なのか、と思ったほどです。屋根が鉄骨でグリッド構成になっていて、すべてのグリッドをつなぎ合わせて初めて屋根の下の空間が確保できるような構造でしたので、弊社ごときにはどのようにして施工すれば良いのか分からず、最初はこの仕事自体をお断りした記憶があります。

お施主様の建築の知識が豊富で、特に塗装に関してはこだわりがあり、契約前にお会いした時から色に関してのお話は熱がこもったものでした。中川さんは、とにかく熱心。鉄骨の屋根、コンクリートの肌の状態、ガラスの納まり、オイルステインの塗り重ねの程度と、数え上げたらきりがないほどの項目を、まるでご自分のお家を建てているかのように検討されていました。

こんなに勉強になった物件は今までには記憶がないくらいです。こうして皆様のお力に支えられて竣工でき、ましてや住宅の賞（2017年住宅建築賞 金賞）まで頂いたことは身に余る光栄です。

─高緑さんの仕事上のポリシーを教えてください。

私は施工屋なので、何をおいても全工期内を無事故で過ごせることを一番に心掛けています。現場に携わる人達はもちろん、お施主様、設計事務所様も同様です。

次に、お施主様・設計事務所様に満足していただくこと。それと、現場内の雰囲気作り、職人さんとの信頼関係です。せっかく縁があって物件を作り上げるチャンスを与えられたのですから、お施主様・設計事務所様にとって良いものであるのは当然ですが、我々施工に携わる人達にもいい現場であってほしいと思っています。

現場はどうしても安全、納まり、工期等の問題でギスギスしてしまいがちです。そんな中でも、少しでもいい雰囲気で、信頼関係を高めて日々の作業を進めること。具体的には「こちらから話しかける」「難しい顔をしない」「雑談をまじえる」「上から話さない」といったところでしょうか。そういったことをしないと、良いものをお施主様にお渡しし、満足していただくことができないような気がします。最後にお施主様の満足を得られなければ、仕事の達成感はありません。

─建築を学ぶ学生の方へメッセージをお願いします。

建築を学ぶ学生さんには　いろいろな経験をして欲しいと思います。我々の仕事は奥も巾も広くいろいろな知識、経験などが活きてくることが多いので、建築だけではなく、あらゆるものに刺激をもらって欲しいと思います。

「CLASS1 ARCHITECT Vol.18」では建築家の中川エリカ氏による建材のレビューをご紹介していますので、ぜひご覧ください。