空間の可変性を担う建材とは。
ある部屋の改装

東京都内のビルの4階にある数年間放置されていた約40㎡の小さな部屋を、一人用の住居に改修するプロジェクト。部屋の所有者である施主が、身内の中山英之氏に依頼し、2021年8月に室内が完成した。施主は希少な照明器具や家具を数多く所有しており、それらをできるだけ部屋に置きたいという。また普段は一人暮らしだが、来客時にはベッドの気配を消せるようにしたいと要望した。

この要望をうけ、中山氏はシーンに合わせて空間のモードを自在に切り替えられる「可変性」をプランの核とした。具体的なプランの起点となったのは、施主が所持していた一つの古い照明器具だ。YAMAGIWAとarflexが共同開発した壁付のライト(現在は廃番)で、2ヶ所で屈折可能な約2mのアームを備えている。壁に固定された設置点を中心にコンパスのように回転するため、その光は部屋のほぼ全域をカバーできる。よって、家具の位置がライトの位置に固定されることがない。中山氏はこの部屋のために、片側の脚に車輪が付いた長辺約2.4mの細長いテーブルを設えた。このテーブルは可動式のライトに応じて位置を簡単に変えられる。また、床面を占拠しがちなベッドの脚には蝶番を付け、使用しない時には壁に立て掛けるように起こし、カーテンを引いて存在を消すことができるようにもした。一つの空間が寝室にも、ワークスペースにも、ゲストルームにも変幻するのだ。

この部屋で最も日当たりの良い場所にはバスルームが配置され、ガラス戸と窓の向こうは屋外テラスとなっている。入浴時以外はここから日光と風が部屋全体を満たし湿気を防ぐ。中山氏はたった一つの可動する照明を起点に、部屋をありきたりなレイアウトから解き放ち、合理的で自由度の高い空間を実現した。屋外テラスでは現在、葡萄棚の設置が始まっており、この住居はまた一つ新たな変化を遂げようとしている。

ある部屋の改装
ある部屋の改装

所在地 / 東京都
設計 / 中山英之建築設計事務所
施工 / 渡辺富工務店
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