CLASS1 DIRECTOR
岩瀬諒子氏が紹介する信頼できる現場監督

建築は、建築家を中心に、構造家・CADオペレーター・職人といった、さまざまな方々の協力によって成り立っています。今回は建築家の岩瀬諒子氏に、信頼している現場監督の方をご紹介していただきました。

─ 岩瀬さん、信頼している現場監督を紹介していただけませんか?

株式会社TANK 代表の 福元成武(ふくもとなりたけ) さんを紹介します。

ヴェネチア・ビエンナーレ⽇本館「ふるまいの連鎖︓エレメントの軌跡」展⽰でご一緒しました。福元さんは、現場監督というよりは、プロジェクト全体を一緒に作り上げたコアメンバーとしてクレジットされています。

■「ふるまいの連鎖︓エレメントの軌跡」とは

日本の住宅一棟を解体してイタリアのヴェネチアへ運び、異なるものへと再生・再構築を図るプロジェクト。
キュレーター:門脇耕三
参加建築家:長坂常・岩瀬諒子・木内俊克・砂山太一・元木大輔

株式会社TANK

〒154-0015
東京都世田谷区桜新町2-29-11
TEL:03-5799-6684
URL:https://tank-tokyo.jp/

─ 福元さんと知り合ったきっかけを教えてください。

福元さん率いるTANKは建築家の⻑坂常さんとの協働プロジェクトを多く手掛けられていて、以前から知っていました。今回「ヴェネチア・ビエンナーレ⽇本館」展⽰のプロジェクトを進めるにあたり、⻑坂さんのご紹介で初めてプロジェクトをご一緒することになりました。

─ 福元さんとの仕事で印象深かったことは?

福元さんは建築家との協働もされていますが、ご自身のチームで設計から施工まで行われることもあります。今回のプロジェクトのために世田谷にあるTANKさんの事務所にお邪魔すると、まちに対して開かれた大きな工房が出迎えてくれたのですが、いたるところに機械や工具、使いかけのマテリアル、失敗作もふくめた試作サンプルが転がっていて(バスケットゴールまでありました)、考えることと試しにつくってみるまでの距離が非常に近い環境でお仕事をされているのだと感銘を受けました。

コロナ禍で現地へ向かえず、ヴェネチアの施工はリモートになりましたが、現地で施⼯完了した箇所の一部に個人的に納得がいかず写真から原因を探っていたところ、福元さんがヴェネチアにある作品と同じものを原寸で日本のTANKさんの工房でも作って一緒に考えてくれました。原因も判明してきれいに仕上がったのが嬉しくて、「世田谷ビエンナーレだね」とみんなで盛り上がったのは良い思い出です(笑)。

試行錯誤の連続だった「ヴェネチア・ビエンナーレ⽇本館」展⽰のプロジェクトにおいて、福元さんが最初から奔走してくれたことは、今思い返しても不可欠なことで感謝しています。

建築家 岩瀬諒子氏

─ 岩瀬さんから福元さんへメッセージをお願いします。

「図面を描いてから工務店と見積調整を行い施工する」というプロセスに慣れていたので、福元さんとの協働でコスト管理やマネジメントさえも、設計者の想像力を超えてより創造的でダイナミックなものになることを実感できました。今では初期段階で福元さんにチームに入ってもらった意味が深く理解ができます。
 福元さんに面白いと思ってもらうのはなかなかハードルが高いですが(笑)、「やってみよう」と乗ってもらえるようなプロジェクトでまたご一緒したいです。

福元さんにも
お話を伺いました。

─ 「ヴェネチア・ビエンナーレ日本館」展示プロジェクトで、特に印象に残っていることを教えてください。

施工のお話を受けた時は「建築家が5人もいるの!?」が最初の感想です。プロジェクトが開始し、各建築家さんの考えていることを間近で聞けたのはとても楽しい時間でした。しかし、当初は現地で我々TANKが担当するはずだった施工が叶いませんでした。制作者として成果物がない限り達成感はないためこの時は落胆しましたが、モックアップ制作とそのスタディの役割は果たし、イタリア施工チームに託しました。いざ現地へ赴いたときに良い仕上がりを確認できたのは嬉しかったです。

施工は物理的な距離に大きな影響を受け、こういった不測の事態が起こった場合はなすすべがないのだということを実感できました。今後のプロジェクトでも「施工の距離」は大きなテーマになると思います。

─ 福元さんが建築の道を志したきっかけや、これまでの歩みについて教えてください。

高校生の時、インテリア雑誌を毎週立ち読みしていました。その雑誌で見たフランク・ロイド・ライトの建築に夢中になったのが「建築」という職業を知ったきっかけです。

その後、建築設計事務所で設計職に就きましたが、図面に書く線一本がどんな材料なのかも知らないまま、工務店さんがいつの間にか家一軒を建ててしまったのを見て恐ろしくなり、材料や作り方を学ぼうと建築設計事務所を辞めて施工会社等を転々としました。その頃も建築の雑誌や本をよく読んでいて、その時に石山修武さんの本に出合い、主催されたワークショップにもいくつか参加させていただきました。ここで「自力で作る」ことの有用さを学んだと思います。それを今、プロとして実践している段階なのだと思っています。

─ 福元さんの仕事上のポリシーを教えてください。

私は、プロジェクトによっては現場監督でもあり、職人でもあります。何人もの職人さんが出入りする工事現場の監督であれば、異職種の職人さん同士が直接対話できるような環境を作ろうと意識します。間を取り持つのが現場監督の仕事ではありますが、職人さんの高い解像度同士で意見を交わす方が無駄な時間やコストを省くことができ、品質も上がる実感があります。

私が職人として手を動かす役割であれば「作っていて楽しいか?」、「作る意図に共感できるか?」を、作りながら常に確認しています。体が正直なので、これを確認しなければ品質に影響が出てしまうのです。

関わってみたいと思うプロジェクトにも共通点があるように思います。一つは、クライアント・設計者・施工者が三者同意のもとでおもしろいものを作ろうとしているプロジェクト。
もう一つは、「どの業者に頼めばいいかわからないし、そもそも引き受けてくれる業者がいるかわからないから、自分たちでやろう」と思えるプロジェクトです。

─ 建築を学ぶ学生の方へメッセージをお願いします。

ものを作ることが楽しければ、好きであれば、長続きします。いつかプロジェクトでご一緒できたら素敵ですね。

 

「CLASS1 ARCHITECT Vol.25」では建築家の岩瀬諒子さんによる建材のレビューをご紹介していますので、ぜひご覧ください。

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