©矢野紀行写真事務所
建築家
1976年 | 大阪府生まれ |
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1999年 | 金沢大学工学部 卒業 |
2004年 | sinato(株式会社シナト)設立 |
2011年- | 京都芸術大学非常勤講師 |
2015 – 2017年 |
日本工業大学非常勤講師 |
2016 – 2019年 |
昭和女子大学非常勤講師 |
主な受賞歴
2010年 | グッドデザイン賞 入賞 |
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2011年 | JCDデザインアワード 金賞 |
2011年 | SDA賞 招待審査員賞(青木淳賞) |
2012年 | AIT Award(ドイツ) 1st Prize |
2013年 | エルデコインターナショナルデザインアワード ヤングデザインタレント賞 |
2013年 | FRAME THE GREAT INDOORS AWARD(オランダ) Finalist |
2014年 | DESIGN FOR ASIA(香港) Silver Award |
2022年 | 日経ニューオフィス賞 経済産業大臣賞 |
主な作品
2016年 | JR新宿駅新南エリア(駅/駅前広場) |
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2016年 | NEWoMan新宿(商業施設) |
2017年 | Alibaba Japan(オフィス) |
2018年 | JR新潟駅コンコース(駅) |
2018年 | Amazon Japan(オフィス) |
2020年 | 新宿東口駅前広場(駅前広場) |
2020年 | 松濤S(住宅) |
2021年 | 小柳建設(オフィス) |
2021年 | 電通デジタル(オフィス) |
HP
建築家を志したきっかけは?
学生時代、仲間と共に金沢の繁華街の外れにある「新天地」という場所でバーを開いたんです。当時の「新天地」は古い長屋が建ち並ぶ暗い場所で、人通りも殆ど無かったのですが、私たちが開店してから次々に若い人たちが店を出し始めて。“点”が“面”になっていく様を実体験として得たんです。都市工学を専攻して“面”として街を計画することを学んでいたのですが、街の風景の起点となるような面白い“点”を作っていきたいと、建築の世界にシフトしました。
事務所のターニングポイントになった建築は?
JR新宿駅新南エリア全体のデザインです。新宿交通結節点整備の為にJR新宿駅を拡張するタイミングで、改札内外のコンコースと駅前広場、また駅に直結する商業施設や街路をデザインしました。指名コンペで、多分コンペ参加者としては一番若く経験値も低かったと思うのですが、とにかく勝ちたくて身体を壊すくらい(笑)頑張ったのを覚えています。新宿駅のプロジェクト以降、巨大な開発に関わることが増えましたね。
事務所名の由来は?
sinatoは漢字で書くと科戸(しなと)。古語で「風の起こる所」という意味があります。風景、風土、風習、風俗、風格、風情、風物など、生活文化にまつわる言葉には「風」の存在があり、そういった生活文化を生み出す「風」の「起こる所」となるべくsinato(しなと)と命名しました。
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巨大な壁が鋭利な刃物のように建物を突き刺している、そんなイメージを抱かせるこの建築物は、家である。約600㎡もの床面積を持つこの邸宅を手掛けるにあたり、アートコレクターでもある施主より、セキュリティとプライバシーを第一義とする要望を受けた。額面通りセキュリティとプライバシーを万全にするならば、“要塞”のようなコンクリートで覆われた家になってしまう。「接道する間口も広いですから、閉じた大きな塊をつくることで、周囲の環境に強いインパクトを与えてしまうことは避けたかった」と大野氏は振り返る。
街に溶け込む建築。街を作る建築。それは大野氏が大学生時代を過ごした金沢での経験が基になっている。街の風景の起点は建築にある。だからこそ、設計の段階で周囲の環境にも配慮する考えを、大野氏は第一義としている。この相対する第一義のコンセプトを融合させた解が、この巨大な壁だった。家の対角線上に建てられたこの壁は、実は2枚が並行している。それも南北に正確に。それはプライバシーを守りながらも街の空気を取り込むような余白を生み出した。
壁といっても全部が覆われているのではなく、窓を多用していることで圧迫感も閉塞感もない。2枚の壁に挟まれた空間を通り土間とし、壁に面する室内空間には通り土間からの光がたっぷりと差し込む。視線の先にあるのは隣地の緑。周囲の環境をうまく視線の先に取り込み、外界とのつながりも欠かさない。訪問客は靴を履いたまま中庭テラスまでくることができ、全開放型の引戸を開けるとキッチンとダイニングを結ぶ広大なスペースが生まれる。
このスペースをより開放的にしてくれているのが、3階まで続く吹き抜けの空間。ダイニング側と通り土間側の室内外にまったく同じサイズの吹き抜けを作り、住宅らしからぬ巨大な気積を確保した。特にダイニング側の吹き抜けには弧を描く階段を設置。シャンデリアなどで演出するのとは別のラグジュアリー感を生み出している。ラグジュアリー感もそうだが、人の動き、家族の振る舞いがわかる階段を設けることは、無機質な空間にも人の息吹を感じさせることができる。プライバシーも守りつつ、人の営み、街との共生も組み合わせることで、より空間が人によって温かみを増し、家族のコミュニケーションが高まる“場”となっていく。
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【アコヤ】
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「Shoto S」を象徴する大きな2枚の壁。場所によっては室外に位置し、場所によっては室内の壁にもなる。つまり同じ壁であっても場所によってさまざまな姿を見せるのだ。だからこそ、無機質ではなく有機質な木材を使用しようと考えたが、木材は自然の材料である以上確実に劣化する。その劣化が遅い素材をと選んだのが「アコヤ」だ。これは新宿駅新南エリアの設計の際、外部で木材を使用するにあたり、より高い耐久性を求めていたときに巡り合ったものだった。
屋外での耐久性を考慮して、ラジアタパインをアセチル化処理した高耐久化天然木材である「アコヤ」を選定しました。ただ、ラジアタパインの色が施主のイメージと合わなかったので、グレーに染色して使っています。調色の際はメーカーさんにサンプルを作ってもらうのと同時に、こちらでもさまざまなサンプルを作り、それらを交換しながら色を決めていきました。木材を屋外で使っていると徐々にグレーっぽくなっていくことが多いと思いますが、今回は染色時にグレーを加えていたので、「アコヤ」自体の耐久性に加えて、色的な劣化が見えにくいものになりました。
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建材開発秘話
アコヤ日本総販売元:池上産業(株)
坪倉真琴さん
現在、アセチル化木材「アコヤ」の生産工場はオランダにあります。オランダは水路網が多岐に発達しており、おのずと防腐処理木材が多用されました。環境問題への関心が深まる1990年代には、水質を害さない防腐木材の研究開発が急務とされ、アセチル化木材の量産化実現へ向け、研究開発が発展したのです。「アコヤ」はラジアタパインと呼ばれるニュージーランド産の松の木を使用し、高い耐久性能と寸法安定性能、防蟻性能が特徴としてあり、腐朽菌への耐用年数は、メーカーより地上50年、地中・淡水中で25年が保証されています。「アコヤ」は樹齢25~30年で計画伐採を行う植林木を使用し、製品になった後も、屋外で50年使用できるので、数ある木材の中でも持続可能性の高い素材です。日本国内でも、脱炭素社会の実現に向けた木材利用が促進される今、木材の欠点が改良されただけでなく、環境面でも優れた機能を持つアコヤは、今後も大きな可能性を持つ木材の一つと言えます。 ※アコヤ(Accoya®)は、Accsys Group – Titan Wood 社の登録商標です。
〒136-0082
東京都江東区新木場2-5-3
TEL:03-3521-8701(代表)
FAX:03-3521-8708
MAIL:toiawase@woody-art-hosoda.co.jp
URL:https://accoya.woody-art.jp/
【Novacolor】
©矢野紀行写真事務所
室内の仕上げにおいて、一番面積を使うのは塗装。つまり塗装面がその空間のイメージに与える影響は大きい。特に今回の施主は建築の際に使われる素材にこだわりを見せ、打ち合わせの段階でもそのやり取りが多かったという。そこで大野氏が提案したのが「Novacolor」だ。色が均質なものではなく、最初からムラが出るような塗装材であるため、室内の肌理にグラデーションやコントラストが生まれてくる。大野氏はその状況を“情報量”という言葉で表現する。“情報量”とは、視覚的に入ってくる模様や構成物の量であり、その量の大小によって空間の構成を引き立たせ、それぞれの風景を作り出していくのだ。
普通の塗装だけだとフラットな質感になってしまうし、色や素材を変えすぎても大雑把な印象になってしまう。その点「Novacolor」は“繊細な情報量”を持っているので、空間の肌理を細かくコントロールするのに便利なんです。工業製品と違って手仕事の雰囲気も感じられるし、光の当たり方によって表情が変わるのも良い。あと偶然メーカーさんがうちの事務所の徒歩圏内にあったんですよ。塗装はサンプル勝負ですからスピード感が大事です。その点事務所同士が近いというのはとても有難いことです。
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建材開発秘話
株式会社アイズ
中村浩司さん
「Novacolor」は元々日本代理店として取引のあったイタリアnovacolor社の新製品として10年前に開発されたものです。novacolor社は他のイタリアのメーカーよりもクオリティは安定しており、新製品の開発にも力を入れるなど進取性の高い企業でもあります。当社としても特殊塗料に特化しており、デザイナーのご要望に応じた特注対応も可能で、製品のバリエーションも豊富です。個人邸での「Novacolor」の採用はあまり多くありませんが、シナト様のモダンで広がるのある明るい空間デザインに微力ながらお手伝いができて良かったと思っています。
【カラーワイヤー+ワイヤーグリッパー】
©矢野紀行写真事務所
北側の庭に面する窓際に配置された2階への階段は、中心に支える鉄骨が1本あるのみ。その軽快な印象を損なわぬよう、室内側の手摺は設けず、テンションをかけたワイヤーを使って落下防止している。またそのワイヤーによって、踏板のたわみや揺れの低減が図られている。ワイヤーは踏板と2階天井とその中間でグリップされていて、2階廊下では階段とのパーテションになる。
実は階段越しに見える北側の庭には、樹齢約800年というオリーブがシンボルツリーとして植えられているんです。なので、ダイニング側から見た時に、なるべく階段がブラインドにならぬよう、スチールで手摺を作る代わりにワイヤーを使うことにしました。ワイヤーって建材としては最も細く繊細で、独特の振る舞いをするエレメントなので、空間的な意匠として好んで使うことも多いんです。荒川技研さんのワイヤーグリッパーは、床壁天井用以外にも、棚用展示パネル用など種類も豊富なので、様々なシーンで使わせてもらっています。
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建材開発秘話
荒川技研工業株式会社
荒川真さん
当社はワイヤーをワンタッチで固定するワイヤーグリッパー(ブランド名「アラカワグリップ」)を世界で初めて開発し、世界で唯一の自社工場(埼玉県所沢市)をもつ専業メーカーになります。ワイヤーグリッパーをカーテンレールと組合せることでピクチャーレールができました。当社のピクチャーレールは高い信頼性を持ち、NYのメトロポリタン美術館やロシアのエルミタージュ美術館等で使用されています。当初は電設工具として開発され、小型化し展示会に出展することで建築やインテリアの素材として使用されるようになりました。ワイヤーグリッパーは見えても美しいように設計されているのも特長です。今回、見えるけど空間を仕切ることが、大野さま設計の美しい住空間にうまく融合されていると感じました。
Q.偶然出合った珍しい建材とは?
A. ストリートプリント
©太田拓実
美術家とのコラボだから出会えた
発色が美しい塗料
新宿東口駅前広場を設計した際に出会いました。これまで排煙塔と機械室しかなかった場所をパブリックアートを備えた広場にするということで、ニューヨークで活躍している美術家の松山智一さんとコラボレーションして設計しました。その際松山さんがステンレスの彫刻に加え、床にペイントをするということで、アメリカで探してきた建材がストリートプリントです。初めて見た時は、アスファルトの上に塗れるということに驚きましたね。やはり美術家が納得して使用したものですから、発色がとてもしっかりしています。
〒816-0851
福岡県春日市昇町7-87 トミナガビル2F
TEL:092-589-4878
FAX:092-589-4915
URL:https://tominaga-corp.com/
Q. 今までで最も思い出深い建材とは?
A. カラーガラス
©矢野紀行写真事務所
構想から完成までを見続けてきた
“情報量”が格段に多いガラス材
これはAGCさんの商品企画に外部有識者として参加した際に、製造からプロモーションまで関わった建材なので思い出深いですね。カラーガラスは片面だけに不透過の塗膜を設けたもので、ガラスの中に色を封入したような表情が特徴的です。不透過なので、壁の仕上として接着出来るし、表側に見えるのは透明なガラスですから、反射という性質を残しています。つまり、色のついた壁なのに光や周囲の風景が映りこんで見えるので、普通の塗装による色面よりも“情報量”が格段に高い訳です。ガラスですからメンテナンス性も良いし、艶があって存在としても美しいですよ。
〒100-8405
東京都千代田区丸の内1-5-1
Q. 素材が活かされた建材とは?
A. テラゾタイル
©太田拓実
自由度が高く素材によって
表情を変えてくる建材
テラゾは人造大理石のことで、こちらも新宿東口駅前広場の床材として使用しました。テラゾは結構自由度が高く、どんな素材を入れるかで全然表情が変わってきます。今回のプロジェクトでは、青やオレンジといったカラフルなガラスや石を自分たちの好きな配合で入れて作ってもらった特注のものです。吉田石材さんは駅のコンコースなども手掛けており、JR新宿駅新南エリアのプロジェクトで知り合ったと記憶しています。
〒151-0053
東京都渋谷区代々木2-14-1 新宿松本ビル5階
TEL:03-6276-8183
FAX:03-6276-8184
URL:www.yosidasekizai.jp/
Q. 空間が引き立つデザイン性をもった建材とは?
A. 大理石モザイク
©矢野紀行写真事務所
無垢だからこそ横の断面も美しい
さまざまな表情を見せるタイル
こちらも“情報量”が非常に多い建材ですね。大理石を細かく正方形にしたものをメッシュのシートに貼り付けてモザイク状にしたものです。15角のタイプと30角のタイプがあり、僕は両方お気に入りです。こちらは新潟の企業社屋で踏板の仕上に使用しています。この階段は、ミーティングやイベント時にはひな壇ベンチとして使われるので、ベンチの段差はフローリング、階段の段差は大理石モザイクで作りました。石はタイルと違って無垢なので、小口が見えるような出隅にも使いやすくて良いですね。
〒507-0901
岐阜県多治見市笠原町2455-20
TEL:0572-44-3060
FAX:0572-44-3073
URL:www.nagoya-mosaic.co.jp/
Q. 汎用性が高く、使い勝手の良い建材とは?
A. コーリアン
©矢野紀行写真事務所
目地を消せるから室内外でも
一体化を演出できる樹脂の建材
大きなベンチやテーブルなどの板は、材料を分割して搬入し、現場でジョイントして設置するのが普通です。しかし屋外で使用する際、ジョイントの目地が一番汚れるんですよね。水回りだってまず目地がカビて黒ずみますよね。だから目地をなくす素材としてコーリアンはかなり重宝しています。コーリアンの最大の特長は“シームレスな大きな面がつくれること”です。樹脂製なので現場でジョイント部分を溶着して消してしまえるのです。屋外では新宿駅の新南エリアや東口駅前広場のプロジェクトでも使用していますし、屋内ではキッチンや洗面などの水回りで使うことも多いです。耐久性がありメンテナンスしやすいことも特長だと思います。
〒100-6111
東京都千代田区永田町2-11-1 山王パークタワー
TEL:03-6811-2066
FAX:03-6811-2067
URL:https://dupont-mcc.co.jp/
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Vol.30