©隣の広報室

This issue’s CLASS1 ARCHITECT
Archipelago Architects Studio
アーキペラゴアーキテクツスタジオ

建築設計事務所

畠山鉄生(左)と吉野太基(右)

畠山鉄生
TETSUO HATAKEYAMA

建築家

1986年 富山県生まれ
2011年 武蔵野美術大学建築学科卒業
2013年 武蔵野美術大学大学院菊地宏研究室修了
2013年 増田信吾+大坪克亘勤務
2017年 アーキペラゴアーキテクツスタジオ設立
2022年- 武蔵野美術大学非常勤講師
吉野太基
TAIKI YOSHINO

建築家

1988年 熊本県生まれ
2011年 武蔵野美術大学建築学科卒業
2015年 東京芸術大学大学院乾久美子研究室修了
2015年-
2019年
長谷川豪建築設計事務所勤務
2020年 アーキペラゴアーキテクツスタジオ参画

主な受賞歴

2017年 新建築住宅設計競技佳作(畠山)
2019年 鹿島出版会SD Review入選
2022年 住宅建築賞金賞
2022年 日本空間デザイン賞入選

主な作品

2021年 河童の家
2022年 Uの家
2022年 閉合の家

二人で建築事務所を始めたきっかけは?

大学の同級生なのですが、実は仲良くなくて(笑)。在学中も数えるほどしか話していなかったですし、その機会は全てお酒の場で言い合いになっていました。とはいえ、建築がお互い好きなんだとわかりあっていたんです。当時、武蔵野美術大学からアトリエ系建築事務所に進む人は1割ほどで、二人ともその進路を選んだのは知っていて、近況を話す機会がありその際に学生時代には感じ得なかった、お互いの思いを共有できた経験があって、建築を社会的にどう位置付けるか、乗り越えるためには仕組みづくりが必要だと、本当に朝まで何度も語り合っていたんです。その後、吉野にきた建築の相談を二人でしようということになり、そのプロジェクトが2019年にSDレビューに入選した事もあって、2020年に吉野が参画しました。二人で始めたとき、3カ月は設計の仕事をせずにこれからの設計事務所とはどうあるべきかを話し合いながら模索していきました。

思い入れのある建築物はなんですか?

やはり「河童の家」です。これが二人で初めての実作となります。デビュー作なだけに熱の入りようは違っていましたね。元々の敷地が特殊な成立ちで、隣の家の庭の一部を分譲された土地です。機能的に必要なボリューム自体は3階建て相当でしたから、庭先に3階建てが立つことで影を落としてしまわないかと気にしないか、隣の家の方と話したのですが、「敷地面積が小さいのでハウスメーカーが入ってこず、家にこだわりのある方が来てくれるんじゃないかと楽しみにしている」とおっしゃってくださって。その言葉にとても励まされました。施主の旦那さんが大道芸人で、パフォーマンスでリアルな河童の芸をされる方なんです。河童は妖怪ですし、こちらとあちらの世界にいるような、曖昧な世界に存在しています。庭先から見える外観は緑青の佇まいによって、そういった河童の存在のような、見た人からは河童を連想するような家だとも言われました。

ガラスと聞いてイメージするものは?

大学の図書館を藤本壮介さんが設計したのですが、ガラスで覆われた本棚がファサードにもなっていて、手前に桜並木が見えるんです。しかも反射してガラスにも桜が映っていて。実像と虚像の桜が、視覚的情報としてどちらも同じものと錯覚させ、実像虚像が大事ではなく桜は桜として、ただ美しいと感じたことに興味を持って、修士課程ではガラスの反射の研究を行なっていました。ガラスは光を通し、同時に内外を遮断する存在。光の加減で鏡のようにも見えるし、反射性と透過性の要素を上手く使うと見たことのない空間が生まれます。また、菊地宏さんは建築に使われている素材を自然のものに置き換えるとすると、ガラスは特別だとおっしゃっていて、反射もするしなかもうっすら見えることから水面に近いものとして他の素材とは差別化して扱われています。頭の片隅にはいつもそういったガラス特有である反射することと透過することが何か建築に活かせないかと考えています。

 

時代によって価値観を変化させる建材とは。
九品寺のペントハウス

©隣の広報室

間仕切りを貫通して円形テーブルを製作

Archiperago(アーキペラゴ)。これは「群島」や「多島海」という意味がある。一つの大陸ではなく、さまざまな個性のある島が独立していて、共通の海でつながる。この島を人と捉えると、個性を大事に、協力し合って同じ思いを共有し、一つの建築物を作る。二人が見出した、これからの建築の在り方、組織の在り方は、事務所の名前にも込められていた。

時代が進み、社会が変革していく中、一つの価値観、一つの正解ではままならないことがある。建築もまた同じで、立場、状況が変わっても違う捉え方ができる建築物を作っていきたい、二人で行なう理由はそこにもある。「仲良しよりも、忖度なく思ったことをぶつけられる相手だからこそ、“いいものを作る”という思いが一緒であるから、一人の人格ではできないものが生まれると思っています。価値観が違うものを両方内包するような建築が、いろんな人に受け入れられるのではないでしょうか。違うものを排除することは簡単ですが、つまらない。その人にとって大事なものは、何かしら自分の興味のあるものにもつながるのではないか、と考えます。せっかく同じ時代に生きているのだから、お互い得意なものを持ち寄れば、面白いものが生まれる楽しさはあると思います(畠山)」。

違う価値観を受け入れながら建築を進める。そう考えたとき、日本全体を見渡してみると、住宅は地方工務店が半数以上を占めていることから、地元の強みと自分たちの設計力が合わされば、建築の世界を広く変えていけるのではと、全国の地方工務店にアプローチをかけた。そこでその思いに応えてくれたのが、熊本市の工務店『Graph』だった。代表の吉安さんは建築への造詣が深く、二人の母校である武蔵野美術大学にてデザインなどの勉強もしているという。

事務所として使うか手放すかを考えていたその物件は、築47年13階建てのマンション最上階。このマンションは熊本初の高層マンションで、先の熊本地震にも耐えた物件。当時にしては斬新なデザインで、3面がガラス張りで、3方向共に軒が2m張り出したバルコニーのある部屋。パノラミックに熊本の市街地を眺めることができる。このビューを生かしたワンルームの構成はないかと考えた。
そのためにしたことは「反射させる」こと。間仕切りもガラス張りにして、窓枠に使用しているアルミサッシと同じものを使用し、間仕切り奥を暗くすることでよりガラスの反射性を高め、4面ともビューにするような視覚の錯覚を起こさせた。

もちろん部屋である以上、キッチン、洗面は必要になる。そこでそれらを一つにまとめたのが、この空間を象徴する直径4mの丸テーブルだ。このことで視野の広がりは格段に広くなり、この部屋の最大の特長であるビューがより際立っている。さらに軒天と天井、バルコニーと床の高さを合わせて水平感を生み出したことで、さらにテーブルの存在感が浮き上がってくる。

©隣の広報室

熊本城がガラスに反射して二つ。この反射性を間仕切りに生かした

畠山さん吉野さん、「九品寺のペントハウス」でのこだわりをひとつ教えてください。

さまざまな価値観、見方を持つ空間の象徴

©隣の広報室

一つのものにさまざまな役割、価値を含ませて設計を行なっている

テーブルです。四角のテーブルにすると景色に対して視点が固定されてしまうので丸テーブルにしました。奥行き7.5mの空間に直径4mのサイズで作成しました。手の届かない円の中心部は、アート作品を置くことも考えて作りました。このスペースはキッチンであり洗面台であり、ギャラリーでありダイニングでもあります。さらにテーブルの下の床を下げて、1mの高さになる1800mm×1800mmの畳部屋を作っています。潜り込むとテーブルの脚が柱のようにもなり、レシプロカル構造で五角形の梁を見ることができます。テーブルの椅子に座ると街を見下ろすように見えますが、畳に座るとその視点からは空しか見えません。

九品寺のペントハウス
九品寺のペントハウス

所在地 / 熊本県熊本市
設計 / Archipelago Architects Studio
施工 / Archipelago Architects Studio

 

MATERIAL
経年変化が魅力を高めていく
【ams type shirakawa】

©隣の広報室

表面を滑らかにもできるがあえてムラを出している

二人の初めての実作であった「河童の家」の外観にて使用した、モルタルと銅粉を混ぜ合わせた仕上げ材を、この部屋の象徴であるテーブルに応用している。銅は空気に触れていくと酸化して緑青化していく性質があり、その経年変化を楽しめるのが特徴だ。一律に緑青化するのではなく、モルタルなどの比率でムラが生まれてくる。そのムラを、自分たちが意図してするのではなく、自然に任せるというスタイル。無機質のように見えて自然による変化を見せることから有機的なものになる。均質化した表面ではなくムラを出したのも、均質的な空間において圧迫感を出さないためだ。

畠山さん吉野さん、なぜこの建材を採用したのですか?

自分の実家が富山県高岡市で、鋳物のまちとも呼ばれています。父も金属作家であり、青銅などの素材が小さい頃から身近にありましたし、青銅の様々な表情をいつもそばで感じていました。設計の際にコンセプトに沿ったズバリの建材がすべて世の中にあるわけではないですし、ないのなら自分たちで作ろう、という事で「河童の家」で研究して出来た材料を、ここではこの建物の隣に流れている白川の、川の水面の色に近づけるために現場で配合を考えて合わせていきました。

©アーキペラゴアーキテクツスタジオ

今回のテーブルの色と同じ、建物の真横に流れる白川の水面

©隣の広報室

酸化すると美しい緑青が映えてくる

 

MATERIAL
調和を作り、かつ反射性も考慮する
【コンクリート平板】

©隣の広報室

テーブルの丸に対比させるため、目地は深く目立つようにしている

丸いテーブルを際立たせるために、あえてグリッド状に目地をつける事を意図して、コンクリート平板を使用。グリッドは既存バルコニーの軒天でケイカル板が正方形に割付られているところからヒントを得た。といっても、天井とグリッドのサイズを変更しているのは、規則正しすぎて逆に窮屈なイメージを生み出してしまうため、900mm×900mmの天井のグリッドよりも狭い、300mm×300mmのグリッドにした。コンクリート自体もツヤが出ているので、光を反射する演出を施している。

畠山さん吉野さん、なぜこの建材を採用したのですか?

©隣の広報室

天井と床のグリッドの直線的なイメージがよりテーブルを際立たせている

テーブルの有機的なムラに対比するように、床を無機質にしたいとコンクリート平板を考えました。現場で打設しな くても、コンクリート仕上げの床とすることが出来るのも良い所ですが、生産量が追い付いていなかったのか、当時は熊本の取扱店に必要面積分の在庫がなかったため、 施工業者さんにお願いして、九州中のホームセンターからかき集めてもらいました。一つの工場で生産したものでないため、色も厚みも違うものが集まりましたが、高さを合わせ、色がランダムになるように配置しています。

 

MATERIAL
直線が広がりを生み出す
【アスノン】

©隣の広報室

内から延長線上に伸びているようにグリッドを合わせて一体感を作る

この空間の特徴として挙げられるのがバルコニーの2mもある深い軒。使用しているのは軒天や防火が必要な場所に使う不燃材のケイカル板。内外を横断して使用できるところから、空間を広く見せるために内観も合わせて同じグリッド、同じ素材で天井を合わせた。

畠山さん吉野さん、なぜこの建材を採用したのですか?

深い軒天がとても目立つ空間ですので、より強調したいと思い、同じ素材を使用しています。軒板はさすがに47年前のものではなく何度か修繕が入っていると思いますが、その素材に合わせるように選択しました。

メーカーさんへ聞いた
建材開発秘話

エヌビーエル株式会社
落合将大さん

環境に優しい87%のリサイクル率

アスノンは、原材料の87%を再生材料で製造しているリサイクル建材です。主原料となる「高炉水砕スラグ」は、製鉄所で鉄以外の成分が溶かされる際に生成される副産物であり、「せっこう」は、火力発電所等の大気汚染対策に使われている排煙脱硫装置から副産されたものです。これらはかつて産業廃棄物として処理されていたものですので、環境に優しいともいえます。耐火認定においても、準耐火30分認定を、他社は12mm厚以上で取得していますが、当社は業界唯一の8mm厚で取得しており、価格面でも認定面でもメリットを感じていただいている不燃材です。

またアスノンに色と柄を付けたエンボスカラーシリーズも現場塗装不要の為、非常に多くのお客様に使用して頂いております。昨年には新商品の木目調8㎜もリリースしました。今後も更なる品質向上と商品開発に注力しながら軒のプロフェッショナルとして精進して参ります。

エヌビーエル株式会社

〒505-0116
岐阜県可児郡御嵩町御嵩2188-50
TEL:0574-67-7341
FAX:0574-67-7651
MAIL:chubu@nbl-asnon.co.jp
URL:www.nbl-asnon.co.jp/

 

 

ARCHITECT’S Q&A

Archipelago Architects Studioが選ぶ5つの建材

Q. 偶然出合っためずらしい建材とは?

A. バーチ合板フローリング(EV)

©千葉顕弥

一枚で完結できる
拡張性と耐久性

熊本の「閉合の家」を設計するにあたり、床材を何にするか検討していたタイミングで、東京工営の担当者から当時はまだプロトタイプ品として紹介いただきました。 バーチ合板なので600mm×600mmの寸法もあることと、フローリングとしてサネ加工されているという点で採用しました。また、バーチという硬い樹種のため、耐久性にも優れていますし、断面も美しいので段鼻の化粧材なしで階段の踏面として使うことができ、蹴込み部分のキャンチもこの合板1枚だけで仕上げることが出来ました。商品化されたのが2022年春だったかと思います。

株式会社東京工営

〒112-0014
東京都文京区関口1-24-8 東宝江戸川橋ビル9階
TEL:03-5225-4080
FAX:03-5225-4081
URL:www.tokyokoei.com/

 

Q. 今までで最も思い出深い建材とは?

A. ams type kappa

©千葉顕弥

どれでもあり
どれでもない素材

川崎市の住宅街に建つこの家の敷地は、元々は隣家の庭であったところを部分的に分譲された小さな敷地でした。そのために 住宅街の中に建つというよりは、庭のなかに在るような様相となるような外壁を検討しました。そこでモルタルに銅粉を混ぜ合わせ、緑青を吹かせることで、人工物とも有機物とも捉えられるような仕上げとしました。これは「河童の家」のため に、弊社でモルタル、銅粉などの配合や工程を研究し自社で開発しました。階段が象徴的に真ん中にあるのですが、階段でもあり、居場所でもあり、家具としても使用し、さらに構造としても機能している存在で、鉄と石と木と樹脂を混ぜ合わせたこの素材は、どれでもあり、どれでもない、そういう意味も込めています。

Archipelago Material Studio

〒135-0034
東京都江東区永代1-3-3 1-2F
TEL:03-6240-3912
URL:http://pelago-studio.com/

 

Q. 素材が活かされた建材とは?

A. セルフレックス

©千葉顕弥

異なる両方の風景に
合わせられる風合い

こちらも「閉合の家」で使用しました。敷地は住宅街と田園風景が広がる場所の間に位置しているので、住宅街にあるような雰囲気では異質になり、かつ田園風景に寄り過ぎても異質になるので、ちょうどいい壁材を探していました。耐候性が高く、内外装材両方で使用できる高強度なフレキシブル板で、セメントに繊維を練りこんで固めているため、モルタルを左官したような風合いがあります。厚みの種類が4mmから20mmまでで8種類あり、サイズも一般的なサブロクバンの他にも大判サイズであるシハチバンもあります。「閉合の家」では下見板張りを上にいくにつれてサイズを大きくしていき、外壁に表情をつけました。

株式会社エーアンドエーマテリアル

〒230-0051
神奈川県横浜市鶴見区鶴見中央二丁目5-5
TEL:045-503-5771
URL:www.aa-material.co.jp/

 

Q. 汎用性が高く、使い勝手の良い建材とは?

A. アクアカラー

©千葉顕弥

下地の性質も残しつつ
調色は無限大

こちらも「閉合の家」で使用しました。セルフレックスにも塗れるのではと、取り寄せてみました。半透明なので、下地となるコンクリートやモルタルの風合いを残す事ができます。また、重ね塗りすることやカラーラインナップ20色を混ぜ合わせることで濃淡や調色も容易なため、色合わせの使い勝手が良いです。自然な色ムラが出るので塗装しやすいのも特徴です。「閉合の家」ではエイジグリーンとモスカーキで調色しムラを出すことで、周りの田園風景と、住宅なども建っている風景のどちらにも馴染むように合わせました。

アシュフォードジャパン株式会社

〒550-0013
大阪府大阪市西区新町1-4-26 四ツ橋グランドビル9階
TEL:06-6531-8253
FAX:06-6536-2635
URL:www.ashford.co.jp/

 

Q. 端正なイメージを持たせてくれる建材とは?

A. グリッドスクエア(ブレンドブラック)

©千葉顕弥

余計なデザインを省き
象徴の存在を引き立てる

©ケイミュー株式会社

外壁からのぞく赤い天井が、塊のような存在としてある「Uの家」の外壁に使用しました。窯業用サイディングは外壁を張ると継ぎ目が出てくるのですが、グリッドスクエアは細かなグリッド目地により、パネルとパネルの継ぎ目が分かりにくく、余計なデザインもないのがよくて、シンプルな外壁に仕上げることが出来ます。「Uの家」ではそのグリッドモジュールに合わせて、住宅のボリュームや開口の大きさなどを決めていくことで、より整ったたたずまいとなりました。さまざまなメーカーからサンプルを取り寄せ、色味やてかりを見ていましたが、ケイミューさんの商品である「SOLIDO」の開発者の方が「河童の家」に興味を持って連絡をいただき、「SOLIDO」の緑青バージョンを作りましょうという声をいただいています。

ケイミュー株式会社

〒540-6013
大阪市中央区城見1丁目2番27号 クリスタルタワー13F
URL:www.kmew.co.jp/

CONTENTS

アプリならマガジン新着情報がすぐに届く
iPhone の方は こちらから
App Storeからダウンロードする
Android の方は こちらから
Google Playからダウンロードする
アプリならマガジン新着情報がすぐに届く
今すぐ ダウンロード