©高野ユリカ

This issue’s CLASS1 ARCHITECT
GROUP
グループ

建築設計事務所

井上岳(左上)と棗田久美子(右上)と大村高広(左下)と齋藤直紀(右下)

井上岳
GAKU INOUE

建築家

1989年 山梨県生まれ
2017年 慶應義塾大学大学院後期博士課程単位取得退学 博士(工学 )
2014年-
2018年
石上純也建築設計事務所
2018年-
2021年
BORD 共同主催
2021年- GROUP 共同主催
棗田久美子
KUMIKO NATSUMEDA

建築家

1988年 広島県生まれ
2013年 慶應義塾大学大学院修了
2018年-
2021年
BORD 共同主催
2021年- GROUP 共同主催
2021年- 相模女子大学専任講師
大村高広
TAKAHIRO OHMURA

建築家

1991年 富山県生まれ
2020年 東京理科大学大学院博士後期課程単位取得満期退学 博士(工学)
2021年- GROUP 共同主催
齋藤直紀
NAOKI SAITO

建築家

1991年 群馬県生まれ
2020年 慶應義塾大学大学院後期博士課程単位取得退学 博士(工学)
2021年- GROUP 共同主催

主な受賞歴

2019年 SD レビュー入賞「浜町のはなれ | House for Hamacho」
日本国際博覧会(大阪・関西万博)優秀提案者として選定

主な作品

2021年 「浜町のはなれ | House for Hamacho」 (BORD として、2021 年に GROUP に改組改名 )
2021年
出版
「ノーツ vol. 1 庭 | NOTES vol.1 Garden」
2021年 「手入れ / メンテナンス展 | Maintenance Exhibition」
2021年
竣工
「改修・新宿ホワイトハウス | Garden besides WHITEHOUSE」
2021年
竣工
「海老名芸術高速 | Ebina Art Freeway」
2021年
竣工
「三岸アトリエの修復 | Repair of Migishi Atelier」
2022年
竣工
「浴室の手入れ | Repair of a Bathroom」
2023年
竣工
「EASTEAST_ 会場設計 | Venue Composition for Art fair」
2023年
竣工予定
「北杜の住宅 | House for Hokuto」
2025年
竣工予定
「夢洲の壁 | Wall in Yumeshima」

「GROUP」設立のきっかけを教えてください

SDレビューの展覧会のときに隣同士だったことから交流が始まりました。当時「BORD」という建築事務所名で活動をしていて、齋藤と大村はまだ大学の博士課程にいましたが、自分の大学の後輩にもあたり、一緒にプロジェクトを提出もしていました。その頃に雑誌の「ノーツ」の企画・編集、さらに「新宿ホワイトハウスの庭」を共に手掛けることとなり2人が参画することになりました。私たちはプロジェクトごとに何人かのメンバーで設計を行なう方式を考えていました。それに「GROUP」は建築以外の人たちも入れようという構想もあったんです。トップダウンの組織ではつくれないものをつくってみたく、そのためにはいろんな価値観を持った集団のほうがいいと思っています。(井上)

思い入れのある建築物は?

「新宿ホワイトハウスの庭」ですね。自分にとって最初のプロジェクトでもあり、ギャラリー兼カフェという、いろんな人の目に触れるものでしたし。2021年4月に外構の改修を、10月に床の改修をするなど長く関わっているのも印象深いです。(齋藤)

同じく「新宿ホワイトハウスの庭」です。自主施工だったのでコンクリートを打設したり、身体に刻まれた記憶がありますから(笑)(大村)

やっぱり同じで「新宿ホワイトハウスの庭」です。この建物は根本的な構造の問題を解決しないまま改修をして施主に返しているので、都度改修の依頼が来るなど、ずっと気がかりな存在でもあります(井上)

ガラスに対するイメージは?

鷺宮の三岸アトリエを補修したとき、既存の窓にミラーフィルムを貼ったことがあるのですが、軽さや透明性を表現する以外の存在になることが印象的でした。(齋藤)

僕が一番好きな建築物がイタリアのミラノにある、ジュゼッペ・テラーニの「サンテリア幼稚園」です。ガラスだけでできているんですが、構造物が少しずつずれていて、奥に太陽があると青に見えて、近づくと白に見えるんです。これからの可能性を感じる素材だと思います。(大村)

建築においてガラスはいろんな分野に使われています。例えば窓などや、天板、ミラー、ひいては構造にもなり得る存在です。「海老名芸術高速」では大きなガラスが不思議な形をした開口に配置されています。ガラスがあることで、開口がまるで額装されたようになり、それによって大きな作品を見ているかのような感覚になるんです。(井上)

 

経年変化を楽しめる建材とは。
海老名芸術高速

© 高野ユリカ

遠目からでもクリエイティブな場所だと感じさせる

井上さん、棗田さん、赤塚さんが「BORD」時代に手掛けた、兵庫県芦屋市の「浜町のはなれ」プロジェクト。この「浜町のはなれ」のクライアントから友人を紹介され、その友人が所有していたのが海老名市郊外にあるアパートメント。元々米軍のスタッフが住んでいたというアパートだったが、基地内に寮ができたことで使われなくなったのだ。手付かずのアパートメントを「また住まい手が増えるようにしてほしい」、これが依頼だった。

築30年以上、延べ床580㎡、建築物は290㎡。6棟のうち2棟が壁を壊して1棟になっている状態。最寄り駅である小田急海老名駅からでも車で10分。住居としてはあまり良くない条件の中、どうクリアしていくかを考えるにあたり、このアパートメントの枠組みをまずは考えた。

アクセスが悪くても借りたい人、それはアーティストのようにものづくりをする人だ。これまで大きな作品を作ろうにも都内には場所がないということを耳にしていた。あったとしても非常に高い。ならば郊外であることの方が静かに作品制作に没頭もできるのではないか、と。また、コロナ禍で外出規制が敷かれた際、発表する場所もなく何もできないアーティストが溢れていたことも聞いていた。だから、つながり合いながら制作に没頭できるスペース“アーティストレジデンス構想”が頭に浮かんだのだ。そう考え、アトリエと住居を組み合わせた「海老名芸術高速」プロジェクトがスタートする。

大きなガラスの窓枠には模様が切り抜かれた壁が見え、遠くから見てもアーティスティックな場所だと認識される。用途を決めずに作ることは、入居者の自主性と想像力を生み出す。今は自然発生的に空間の使い方を考えたり、知的好奇心を掻き立てるコトを起こし、海外からも入居が決まり、また新しいコトが生まれる場になっている。

GROUPさん、「海老名芸術高速」でのこだわりをひとつ教えてください。

壁を極力減らして開放的な空間に

© 高野ユリカ

穴が開いていない、という概念を覆す

床ですね。壁にあるような模様がアトリエの床にもあるのですが、その部分は底を抜いています。床は穴が開いていないことが常識、という概念を覆していますが、今回の設計の際、段差を作ることは、アーティストにとって作業効率が良いということを知っていました。ほかにも腰掛の役割にもなっており、入居者からの評判は上々です。

海老名芸術高速
海老名芸術高速

所在地 / 神奈川県海老名市
設計 / GROUP
施工 / GROUP

 

MATERIAL
これまでにない組み合わせの妙
【白漆】

© 高野ユリカ

基礎の部分も腰掛としての機能を満たす

床を施工するにあたり、素材である合板をそのまま見せることは、今はありふれた表現になっているから、何か違った仕上げにしなければと想定していた。そんな折、出会ったのが漆職人だった。漆の話を聞き、漆の可能性を感じた。漆は日本古来の塗料でもあり、防水材でもある。メンテナンスがあまりかからない塗料で、かつ植物由来であるから安心。何よりも色が経年変化していく性質もあるので、訪れるたびに変化する楽しさもある。合板に漆という、あまり聞いたことのない合わせ方は、いい意味でのギャップを演出した。

GROUPさん、なぜこの建材を採用したのですか?

最初、漆のイメージは「乾くまでの時間がかかる、高い、かぶれる」、そんな感じでした。しかし佐野さんにお話を伺い、調色もできると聞き、漆の可能性を感じました。あとは費用面でした。そこで原料を中国から輸入して、漆を自分たちで生成するところから始めました。漆を煮詰めてろ過して作っていくと、普通の塗料よりも少し高いくらいで収まったんです。あとは紫外線に弱いということですが、金閣寺は屋外でも漆を塗っていますし、メンテナンスさえできれば大丈夫だろうと判断しました。

メーカーさんへ聞いた
建材開発秘話

佐野圭亮施工
佐野圭亮さん

漆への情熱、イノベーティブさを感じた

© 高野ユリカ

井上さんが東京藝大に勤務していたときに偶然お会いしたのが最初でした。今回ご相談いただいたときに感じたのはまず意外で、次に驚きでした。GROUP代表の井上さんはどうしても漆にこだわりたいとのことで何度かご相談させて頂きましたが、お話を伺うたびにに漆への情熱が増していっているのを感じました。さまざまな化学塗料や合成樹脂がある現代において、日本文化にゆかりのある漆という塗料の活用に大きな意義を感じていただけたのかと思います。「海老名芸術高速」を最初に見たとき、空間がきれいだなあ、と思いました。アーティストのレジデンスというコンセプトで設計されていますが、建物に大きな開口部を持たせてあるため自然光が建物内にダイナミックに差し込み空間に豊かなコントラストを与えています。自分が外にいるのか中にいるのか一瞬わからなくなるようなそんな瞬間があります。

漆は塗装に特殊な技術を要し、また高いコストがかかるため大規模的な活用には限度あるかと思われます。ですがある意味日本の文化を支えてきた塗料です。そういった面では実用をはなれても人々の生活に豊かさを添えることのできる素材であるかと思います。これからは例えば建築業界、漆工の産地、アーティストなど異なる分野の人々がより横断的に交わる事によってイノベーティブな漆の運用のされ方、新たな伝統が育まれていくのではないかと思います。

佐野圭亮施工

 

 

MATERIAL
これからの価値を見出す存在に
【ロール巾木】

© 高野ユリカ

ディテールに懐かしさを演出している

そもそもが築30年以上の建物。その雰囲気をどれだけ継承できるか、というのも「海老名芸術高速」のテーマとしてあった。そこで以前の意匠を再現するため、元々使われていた巾木を探し出して復元した。一般的であるということは、それだけ市場に浸透しているということ。つまり日本の家屋において当たり前の風景であり、それは人々にとって思い出の風景になる。壁紙も一般的なクロスを使用、厚みがあり表面に凹凸があるので壁材に影響されないのが特長でもある。

GROUPさん、なぜこの建材を採用したのですか?

一般的な巾木とありふれた壁紙でしたので、違う建材をと考えてしまいそうですが、開口部の印象が強い分、他の個所は以前と同じ状態に使ったほうが効果的ではないかと考えました。建材はおしゃれである必要ではなく、どうしたら引き継げられるかということがこれから重要になっていくと、浸透しているからこその価値が見直されていくのではと思います。

© 高野ユリカ

 

MATERIAL
幾何学模様に負けない存在感
【ランプシェード】

© 高野ユリカ

シェード一つの存在が空間をまとめている

アトリエとして屋内を広い空間とした時点で、照明もまた大きくすることを想定し、「浜町のはなれ」で取っ手を制作してもらった金工作家の阪上万里英さんに依頼した。周囲の意匠が幾何学模様であるからこそ、ランプシェードはその逆を狙った。アルミの白っぽい銀色で、マットな仕上げにし、ちょうど良く周囲の光の環境を取り込み、部屋の軽やかさを演出。結果的に幾何学模様の空気感に負けない大きさが生まれ、バランスが保たれる空間となった。

GROUPさん、なぜこの建材を採用したのですか?

ランプシェードは阪上さんに作ってもらいたいと最初から思っていました。阪上さんは「ヨーガンレール」というブランドのアクセサリーも制作しており、不定形なもの、例えば光や水をどう立体的に彫刻作品として見せられるかを追求されている方です。

メーカーさんへ聞いた
建材開発秘話

阪上万里英さん

© 高野ユリカ

幾何学模様に負けない巨大なシェード

東京藝術大学の研究施設で、部署は違いますが井上さんと同じ建物で仕事をしていました。そこには考古学研究や建築、彫刻など様々なジャンルの方がいて、交流があり、井上さんとお話しするうちにお互いの領域で協力できる事があれば面白い事を何かやりましょうとなりました。

今回の海老名でいうと、ここに寝泊まりして、生活の記録写真を撮ってみて、こんな事をみんなで考えて……と、様々な内容を話してくれ、その記録写真のデータをもらい、ではランプシェードのデザインのアイデアを考えてみてくださいというスタイルで、とても楽しくやらせてもらいました。

何タイプか考えて最終的には井上さんがまとめてくれたのですが、受注依頼を仕事としてやっている感覚より、共同作品を制作しているのに混ぜてもらってる感覚です。

作家 阪上万里英

 

 

ARCHITECT’S Q&A

GROUPが選ぶ5つの建材

Q. 偶然出合っためずらしい建材とは?

A. テニスボール

©浅見旬

建材でないものも
建材として考えてみる

「海老名芸術高速」のロゴも手掛けたグラフィックデザイナーの石塚俊さんとの対話を通じて、テニスボールを建材としてスツールをつくったことがあるんです。撮影の現場では撮影に使う什器の足にテニスボールをさすことで音が出にくくするとともに撮影現場の床に傷をつけないようにすることがあるそうです。この話を元に家具とテニスボールを合わせると色合いがきれいで、使ってみたらかわいいポイントになるのかな、と思ったんです。今回はポイントに加えて構造の役割も果たしています。アイデアで建材でないものが建材になるという、考え方の幅が広がりました。建材の新しい使い方だけに目を向けるのではなく、普段建物のためにつくられたものではないものにも目を向けることが設計において重要だと考えています。

 

Q. 今までで最も思い出深い建材とは?

A. コンクリートブロック

©高野ユリカ

構造として存在し、
オブジェとして存在する

「新宿WHITEHOUSE」の庭に空中の床を手掛けたのですが、既存の樹木の根が邪魔になって基礎が打てなかったんです。床を3点で支えなければならず、床が反らないようにこの辺にあるものを使って、と考えたとき、基礎を打てない部分にワイヤーでコンクリートブロックを吊るすことを思いつきました。反らないための構造計算を行ない、長さを調節したことで安定した床が完成しました。コンクリートブロックは「新宿WHITEHOUSE」の塀にもつかわれていて、塀のコンクリートブロックが落っこちているような表現になればというおもいもあり設置しています。

 

Q. コストパフォーマンスがよいと感じた建材とは?

A. エコフラット60

©竹久直樹

「白」という存在の
基準となる建材

会場構成の際アーティストの展示壁を作る仕事が多いのですが、多くの場合、彼らにとってベースの色となっているのが「エコフラット60」です。臭気も少なく仕上がりも早いのが特徴で、アートフェアの会場構成を行なったときもかなりの量を使用しました。この塗料が白い壁の基準となっていることは面白いことだと考えています。展示壁の色としての「白」について考えるきっかけになっています。「白」について考えることで今までにないような展示表現が可能になるのではと思います。

日本ペイント株式会社

〒140-8677
東京都品川区南品川4-7-16
URL:https://www.nipponpaint.co.jp

 

Q. 空間が引き立つデザイン性をもった建材とは?

A. 銅メッシュ

©村田啓

アート空間に溶け込み
構造的役割も果たす

山梨県にある「清春芸術村」のチケットカウンターは屋外にありますし、自然が豊富なところなので虫がたくさん寄ってくるんです。夏は暑くなりますから通気を考えると網戸になるのですが、アートミュージアムにとってチケットカウンターは予告的な空間です。自然の中にアート作品が点在し、それを鑑賞する。そんな環境を目指したいと思い、自然の光が美しく反射する銅製のメッシュを使用しました。一見すると網戸的なイメージがなく、外部を遮るフィルター的な役割を果たしています。銅製メッシュは破れる、錆びると聞いていましたが、意外と持ちがいいですよ。

株式会社くればぁ

〒440-0084
愛知県豊橋市下地町字神田38
TEL:0532-51-4151
FAX:0532-51-4177
MAIL:mailto:info@nippon-clever.co.jp
URL:www.nippon-clever.co.jp

 

Q. 新技術が使われている建材とは?

A. 振動スピーカー

© sony park

空調・照明以外の分野で
電気をどう用いるかの実験

銀座の「Sony Park Mini」にて実施した、空間と音に関するリサーチのスペース「Tuning for Sanctuaries」で展示を行いました。そこで「音テーブル」を制作した際に使用しました。テーブルの足に振動スピーカーを取り付けることで、設置した面に反響してテーブル自体が大きなスピーカーになります。電気を設計に積極的に取り入れていくことを考えています。建築はそもそも空調や照明など、多くの部分で電気との組み合わせを考えて設計するものです。空調や照明以外でも電気を用いて設計するとどのような建築、環境をつくることができるのか考えています。その一部としての「Tuning for Sanctuaries」の展示でした。

Parts Express

725 Pleasant Valley Dr.
Springboro, OH 45066 USA
URL:https://www.parts-express.com/

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