© Marco Cappelletti
建築家
1989年 | モスクワ生まれ |
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2014年 | モスクワ建築学校MARCH 大学院 修了 |
2014- 2019年 |
石上純也建築設計事務所 |
2019年- | KASA 共同主宰 |
2022年 | 東京藝術大学 嘱託研究員 |
2024年- | 明治大学 兼任講師 |
建築家
1987年 | 三重県生まれ |
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2012年 | 早稲田大学 大学院 修了 (石山修武研究室) |
2012- 2019年 |
石上純也建築設計事務所 |
2019年- | KASA 共同主宰 |
2020- 2022年 |
横浜国立大学 大学院 Y-GSA 設計助手 |
2023年- | 横浜国立大学 非常勤講師 |
2024年- | 早稲田大学 非常勤講師 |
主な受賞歴
2019年 | 第38回 SDレビュー2019「鹿島賞」 |
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2021年 | ELLE Decoration「ARCHITECT OF THE YEAR 2021」 |
2021年 | 第17 回 ヴェネチアビエンナーレ 国際建築展「特別表彰」 |
2022年 | 第21回三重県文化賞「文化新人賞」 |
2022年 | Under 35 Architects exhibition 「伊東賞」 |
2023年 | Under 35 Architects exhibition 「Gold Medal」 |
2023年 | 第20回ベストデビュタント賞 |
主な作品
2019年 | 蓮のある風景 |
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2021年 | ヴェネチア・ビエンナーレ ロシア館の改修 |
2022年 | 瀬戸内国際芸術祭2022 伊吹島「ものが見る夢 – 海の庭と島の庭」 |
2022年- | 小石川植物祭企画・発起、総合ディレクター |
2023年 | 東京ミッドタウンDESIGN TOUCH2023「風の庭」 |
建築の道を選んだ理由は?
ぼくは中学生くらいからぼんやりと建築をやりたいかなと思っていました。理系ではありましたが文系の科目も好きでしたし、アートや音楽も好きなので、建築なら分野の垣根なくそうした好きなこと全部に関わりながら、自由に、かつ専門性を持って取り組めそうだと感じていたからです。逆に建築を考えていると、いろんな事の起源に遡っていける、そういう広がりにも魅力を感じています。(佐藤)
幼少期から絵を描くのが好きでアートスクールにも通っていました。幼少期に祖父母がDIYでダーチャ(菜園付きセカンドハウス)に小さな家を建てるのを現場で見たり手伝ったりしていた経験が、私に影響を与えたと思います。大学に入ってからは都市のような大きなスケールのものにも興味を持つようになりましたが、やはり石上純也さんとの出会いが私を今の道に導いてくれたように思います。(コヴァレヴァ)
海外での活躍のきっかけは?
2021年の第17回ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展に参加してからです。SDレビューでの「鹿島賞」受賞を発端にロシアの大学へ講演に呼ばれた際、知り合った教授伝いに、ロシア館の作家公募の情報を知り、応募することにしました。「40歳以下のロシアの建築家」100組以上の中から選ばれました。このプロジェクトをきっかけに、逆に日本での認知度も高まり、国内外両面に対して良い影響があったと思います。日本と海外を行き来することで常に自分たちの感覚をフレッシュに保つことができていると思いますし、今後も異国間の橋渡し役になれるように心がけていきたいです。
今後取り組みたい活動は?
ロシア館のプロジェクトで元OMAのパートナーの建築家 Ippolito Pestellini Laparelli さん(2050+)と仕事をする中で、キュレーションの面白さを知り、最近はキュレーションやアートディレクションの案件も増えています。多様な人の声や土地、場の文脈を整理しビジョンを与えていくこと。あるいは建物や場所、都市など、より大きな環境との関係を整え、新たな眼差しを空間的に提示すること。こうしたことも、建築に携わる人間だからこそできる活動ではないかと考えています。
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2021年5月、新緑のヴェネチアに、瑞々しいグリーンの外壁へと一新されたロシア館が姿を現した。世界で最も歴史ある国際美術展ヴェネチア・ビエンナーレの展示場として、日本館の隣に建つこの館は1914年にアレクセイ・シューセフが設計して以来、時代と価値観の変遷に伴い幾度もの改修が施されてきた。誕生から1世紀余りを経て躯体の変貌や傷みと共に変わり果てたこの歴史的建築物の精神性を再考する所から、プロジェクトは始まった。
建築物を人間になぞらえた時、生まれたての0歳に最も価値があるとは言い切れない。年月が刻んだ痕跡や重ねてきた長い時間そのものにも価値がある。原型を再現するだけの修復ではなく、現代の技術を用いて各時代の物語全てが共存できる状況を生み出すことはできないか。そう考え建築家が中心に据えたのは「ダーチャ(菜園付きセカンドハウス)」という生活様式だ。ロシアの人々が都市部と菜園のある郊外の小さな家を行き来し、その家を手入れしながら人生の彩りを慈しむように、ヴェネチアのこの館をロシア本国から見た「ダーチャ」と捉えて手入れを施し、人々が集い美術を語り合う場所にしよう。この精神性がロシア人と日本人とイタリア人からなるチームを、互いへの敬意の下に一つにした。シューセフが建築様式に求めた国のアイデンティティを、彼らは生活様式に視たのだ。
コロナ禍が世界を覆っていた時期に改修工事は進められた。現地に一度も赴くことができない建築家に代わり、ミラノのキュレーターチーム、ヴェネチアの建築家や施工者が目となり手となってプランを現実化していった。塞がれていた多くの窓や地上階の3つの入口が再び開かれ周辺環境との連続性を取り戻し、2階の床は刷新されて可動・着脱式となったことで天窓からの光が地上階まで降り注ぐ。外界から隔てられた一角はその暗さを生かす映像作品などの展示室へ、象徴的なテラスは雨水処理等の問題を解決してラグーンを一望する心地よい空間へと再生された。多くの人々の手によって優しく繕われ「ダーチャ」の心を宿したこの館は、過去の全ての物語を一つとして否定することなく包み込み、今に調和し、次の新しい世紀へと手渡されていく。
周辺環境との関係性を改修する外壁のグリーン
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最も難しかったことの一つがファサードの改修でした。スタッコの外壁を削って層状調査した結果、オリジナルの外壁仕上げはシューセフのスケッチ通りグリーン系統だった可能性が高いと分かりました。そこからソ連時代にはイエロー、さらにその後、周囲の樹々と補色関係にあるピンクへ塗り直されています。今回の改修で元来のグリーン方向へ戻すことは定まったものの、サンプルの多様なグリーンの中から一つに決めていく際、クライアント側と意見が相違しました。彼らが黄みの強いグリーンを推したのに対し、私たちは清々しい青みのグリーンにこだわりました。色々と調べているうちに、ロシアのエルミタージュ美術館の外壁は終戦後に戦争からの開放感を象徴するために現在の明るめの薄いグリーンへ塗り直された事が判り、感染症による閉塞感を一掃する意味でもフレッシュなこの色がふさわしいとみんなを説得しました。結果的に背景となる公園と融和し建物が大きく感じられるようになったと共に前面道路の雰囲気も明るくなり、周辺環境も含めた一帯の改修に寄与できたと思います。
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【地上階のレンガ】
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歴代の改修でもロシア館2階内部の意匠は、1世紀前のオリジナルを概ね継承してきた。しかし使用されている建材は、これまで開催されてきた展示に伴う模様替え等によって比較的新しい時代のものに替わっている。それに対し建設当初倉庫として計画されていた地上階はソ連自体に展示室へと転用されたものの、テラス下は活用される事なく放置されており、建設当時の建材がそのまま保存された状態だった。その空間を掘り起こし光が入った瞬間、約100年前のレンガからなる壁面や柱が、何物にも替え難い存在感を持って現れた。
すでにそこにあった歴史的なレンガが作り出している凹凸感や無骨な表情、それらがあまりにも美しく、これをどのように上手く見せるかを最優先に考え、他の材料やディテールを決めていきました。天窓を開けて磨りガラスを入れこの空間を明るくしながらも、亜鉛メッキなどの粗雑なテクスチャでテイストを合わせつつ、梁などはカットTで納め、古いレンガの粗い凹凸とシャープな直線とを対比させました。結果的に2階は意匠性や様式という観念的な保存、地上階はレンガ等の材料という物質的な保存が共存することとなりました。
【亜鉛めっきチェッカープレート】
© Marco Cappelletti
館の中央と北西の部屋の2階の床は、ソ連時代に地上階へ展示室を拡張するにあたって持ち上げられた。北西側の床には構造的な問題があったため、一度除去し、スチール製の可動梁と着脱スラブによってフレキシブルな床へと生まれ変わらせるのと同時に、2階と地上階とをつなぐ階段も新たに挿入している。建設当時と同じ床レベルに設けた階段踊場の窓からは1世紀前の人々が見ていたであろうものと同じラグーンの風景が臨める。階段での上下移動を時空の旅と捉え、建築と周辺の風景との関係性を復元したのだ。この踊場を堺に床仕上げが木からスチールへと切り替えられている。
今回の改修の大きな方針として、オリジナルの意匠が保存されている2階をエレガント、元々倉庫として計画された地上階をラフと、全体の仕上げを選んで行きました。例えば、2階の床仕上げは建設当時の写真を参考にヘリンボーンのフローリング、地上階は倉庫的な雰囲気を意識してコンクリートの金鏝仕上げとしました。趣の大きく異なるこれらの空間を階段でつなぐにあたり、踊場より上の部分は2階の床と同様のヘリンボーン、踊場とその下の部分はヘリンボーンの柄をモチーフとして踏襲したような亜鉛めっきのチェッカープレートを採用し、洗練された空間と倉庫のような粗野な空間との間にグラデーションを作り出しました。
【亜鉛めっきグレーチング】
© KASA
北西側の建物に新たに挿入された階段には、当然ながら安全性を担保する手摺りを設ける必要があった。エレガントな2階と倉庫のような雰囲気の地上階をつなぐ階段には、ヘリンボーンとチェッカープレートによるグラデーション状の意匠を採用したが、手摺りの課題が残された。外界からのエントランスでもあるが故に館の印象を大きく左右するこの空間に、上品さと粗雑さを統合する手摺りとして建築家が選択したのは、足場等にも使われるスチール製のグレーチングだ。
吹き抜けの明るい空間に面し、2階と地上階の両方から目に入る場所にあるため、上品さと粗雑さの両性を満たす必要がありました。また、2階の床をスチール製の可動式の梁を用いて着脱可能にしているため、床を設置する際には階段の手摺も外すことができるように、ユニット状になっている必要もありました。これらを叶えるものとして、工場などのプラントや側溝の蓋などにも使われるグレーチングを採用しました。一見ラフな建材を上品な納まりとするために、割り付けやディテールのラインなどに気を配りました。
Q. 偶然出合っためずらしい建材とは?
A. カフェオレベース
© 株式会社On-Co
コーヒーかすと
廃棄牛乳で作る新素材
友人でもある素材アーティストの村上結輝さんが開発した、コーヒーを淹れた後のかすと廃棄する牛乳から生み出された素材です。コーヒーと牛乳から作られるので「カフェオレ」というネーミングにした点も含め、素材自体を新たに作り出すことの可能性を感じました。建材そのものが物語を持っているって、とても素敵ですよね。ランプやテーブル、スツールなどのプロダクトも作られています。
〒511-0851
三重県桑名市西別所1375
URL:https://on-co.jp/
MAIL:support@on-co.co
Q.コストパフォーマンスが良いと感じた建材とは?
A. シンエツ ポリカタフ
© KASA
スチール波板を
置き換えて天窓に
私たちの事務所である小石川のアトリエで使用しています。スチール波板の屋根材の一部をこのポリカに変えて、大きな天窓を作りました。丈夫で軽いので使いやすい建材です。同じ規格の建材を置き換えるだけなので、天窓であっても特別な納まりを必要とせず、設置が容易です。彩光性が良く、室内に柔らかな光が落ちてくるので気に入っています。
〒100-0004
東京都千代田区大手町1-1-3 大手センタービル
TEL:03-5288-8400(代表)
FAX:03-5288-3111
URL:https://www.shinpoly.co.jp/
Q. 環境に配慮した建材とは?
A.resecco(リセッコ)
© 株式会社On-Co
廃棄石膏ボードから生まれた
配色自由な美的建材
友人の素材アーティスト村上結輝さんと、彼が執行役員を務める会社が共同開発した、廃棄石膏ボードをアップサイクルした新素材です。建築業界では大量の石膏ボードの廃材が発生します。これまで再利用しにくかったこの素材を細かく粉砕して、大理石やテラゾーのような表情の美しい素材へ生まれ変わらせました。廃棄物を材料に料理をするような感覚で新たなものを生み出していく、彼は土中の微生物さながら。分解者としての創作とも言えるでしょう。
〒511-0851
三重県桑名市西別所1375
URL:https://on-co.jp/
MAIL:support@on-co.co
Q. 最も思い出深い建材とは?
A. 伊吹島の波止場に残置されていた魚網
© 瀬戸内国際芸術祭2022
経年変化と手入れの跡が
無二の価値を宿す
瀬戸内国際芸術祭2022で制作した作品「海の庭」に使用しました。伊吹島の波止場に放置されていた魚網を見つけ広げてみると、長年に渡り紫外線を浴びて劣化し糸一本一本が実に多様で美しい色彩へと変化していました。所々にほつれや手入れの跡も見つかり、それもまた美しいと感じました。色の違いや網目の細かさの違いが見せる表情、新品の網ではないからこそ生まれる独特の「ゆらぎ」があります。時を経た魚網と向き合い作品を作り続けるうちに、例えば穴の空いた部分が波に見えたり、縫跡が潮目に見えたりと、唯一無二の材料がそこにはありました。それらをどのように再構成し、外に広がる穏やかな瀬戸内海と縫い合わせるのかを、考え制作しました。
Q. 素材が活かされた建材とは?
A. 無臭柿渋
© KASA
時と共に増していく
深みを愛でる
小石川のアトリエの家具や什器に塗装しました。柿渋特有の臭いがないのが特徴ですが、柿渋の持つ防虫効果などの良さはそのまま活かされています。時の経過と共に色がどんどん深みを増し、赤みが増していきます。太陽が当たっている場所とそうでない場所とでは色の変化にも違いがあり、時間と共にそのものが存在した環境が転写されるようで面白いと感じています。
瀬戸内国際芸術祭の総合プロデューサー福武總一郎さんが「在るものを活かし、ないものを創る」と仰っていて、その考え方に共感しました。そこにあるものをなるべく感度よく拾い集めて、そこにない何を創ればいいのか。小石川のアトリエでも、天井を解体した時の廃材を建具に再利用したりしていますが、それらはとても深みのある色や傷、歪みがあって、その状態を今作ろうとしても作れない。100年前のレンガや、小石川植物園の森なども同様です。それらにどのように価値を見出し、その価値を皆で共有していくか、そこに自分たちがビジョンを提示していけたらと思います。壊れたら買い替えるのではなく、金継ぎするような態度で世界と向き合っていく。壊れた部分をよく観察し、ここは川に見えるとか、雨に見えるとか、面白がって見立て一筋の金を入れることで、新しい価値を吹き込み全体の見え方を変えていくような繕いとしての創作の在り方を模索しています。
〒532-0032
大阪市淀川区三津屋北2-15-7
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Vol.36