LOCAL建材 – 建物に奥深い風合いを醸し出す漆の可能性

新たな地域建材と出会う、見つける。
錦古里漆器店 錦古里 正孝

(越前漆器)

福井県

越前漆器は鯖江市の三大地場産業の一つで、特に河和田地区において盛んである。「漆」を原料とした椀・膳・重箱等は、古典的な優雅さと堅牢性を持ち、海外でも親しまれている。

錦古里 正孝 Masataka Kinkori

昭和28年生まれ。祖父の代から90年以上続く錦古里漆器店3代目。下地から上塗りまで100%漆を使った高品質なものづくりを行っている。

古くから建築に使われていた漆

錦古里漆器店は、祖父の代から100年ほどの歴史を持つ「漆塗りの工房」です。鯖江市河和田地区は、1500年以上の歴史を持つ越前漆器の産地。我々は漆器の工程の中でも「上塗り」を行っており、東京・大阪・京都などの料亭で使われるお椀や膳の塗りや修繕などを手掛けています。

漆は約5000年前から使われている天然の樹脂で、古くから建築塗料にも使われていたようです。特に漆器産地では、昔から家の柱や建具に漆を使うことが多く、漆塗りの大黒柱や長押などが見られました。私も仲間の塗師たちと、新築の家の柱に漆を塗りに行ったことがありましたね。漆塗りの柱は経年とともに木目の美しさが引き立ち、独特の艶が楽しめます。最近では和風の家自体が減っていることもあり、漆の出番が少なくなっているのですが、2019年4月に完成した複合施設「TOURISTORE」では、店内のさまざまな部分に漆塗りが施されています。

金属のような質感も可能

「TOURISTORE」は我々の工房とデザイン事務所、観光案内所などを合わせた複合施設。建物には地場の素材である「漆」を活かそうと、まずは工房の木の壁一面を漆で塗ることになりました。広い範囲なので、場所によって乾き具合に1週間〜10日も差が出てしまい、状態を確かめながら塗り重ねていくことが難しかったですね。驚いたのは、MDF合板(木質繊維の成形板)と漆の相性。漆を塗り重ねる度に木質繊維が漆を吸い込み、とても独特な風合いになったのです。漆を塗ったMDF合板のレジカウンターは店内でも存在感があり、来店されたお客様から「この素材は金属ですか?」と言われたこともありました。

漆を塗ったMDF合板のレジカウンター

新素材とのコラボで広がる可能性

今回をきっかけに、建材塗料としての漆の可能性を感じました。漆は紫外線に弱いため、屋外での使用は難しいですが、身近に取り入れる方法はまだまだあるはずです。また、昔と違い、今はさまざまな建材が開発されているので、漆との組み合わせにより想像もしない質感が生まれることも。工房では漆塗り体験を行っていますが、最近は「陶器や楽器に塗ってみたい」と言われる方もいらっしゃいます。漆の良さは、どんな塗料にも出せない奥深い艶。新しい素材とのコラボレーションにも挑戦するなど、これからも漆の可能性を追求していきたいですね。

錦古里漆器店
〒916-1222
福井県鯖江市河和田町19-8
TEL : 0778-65-2233
アプリならマガジン新着情報がすぐに届く
iPhone の方は こちらから
App Storeからダウンロードする
Android の方は こちらから
Google Playからダウンロードする
アプリならマガジン新着情報がすぐに届く
今すぐ ダウンロード