狭小地でオープン性とプライベート性を同時に叶える
2018年に増田信吾氏と大坪克亘氏が完成させた「街の家」は、東京都の住宅地に続く賑やかな商店街にある。敷地は間口約3m、奥行き約15mという、まるで鰻の寝床のような狭小地。施主はプライバシーを優先したい妻と、街の人ともコミュニケーションを取りながらオープンに過ごしたい夫。相反する要望を持っており、設計では狭小地でオープンな状態とプライベートな状態を両立させる建築の在り方を考えることになった。
商店街に面したこの土地の前面は必然的に街へ開かれており、奥は静かな住宅街へ接していく。増田氏と大坪氏は、土地の奥行きが深いことで生まれているオープン性とプライベート性の同居、そしてその行き来を考え、2層の細長い箱状の木造家屋を鉄骨によって4.5mの高さに持ち上げることを提案した。
こうしてできた1階部分のピロティは、家のエントランスでありながら街にもつながり、近隣住民とのバーベキューなども行う半ばパブリックな空間として機能している。対照的に、ピロティの奥に据えた小屋は物置でもありながら夫がリモートワークを行うための個人的な拠点にもなった。光が差し込み街の気配が伝わる2階の前面はリビングとし、その直上に子ども部屋、対角線上にある3階の奥に最もプライベート性の強い寝室を配置した。
狭小住宅においては特に、住む人の生活の仕方や持ち物と密接に連動させた生活動線を引く必要があるが、増田氏と大坪氏の場合はそういった細部を自身の設計の根幹にはしない。「私たちは常に施主とは異なる目線を持つ。設計することでその場所がどうなるのか、という大きな視野や新しい解釈こそ、私たちに求められていることだと思います。施主はやはりどこかしらに矛盾を抱えていて、世の中の用意されている答えでは解決できないからこそ私たちに声をかけてくるのだと思いますから」。増田氏と大坪氏の徹底した客観性によって、矛盾を孕んだ問いは鮮やかに解かれていく。