空間そのものがケアの一翼を担い、成長を助ける
2021年4月、岐阜県羽島郡岐南町に完成した「かがやきキャンプ」は、就学前の重度の障がいを持つ子どもや、日々の医療的ケアを必要とする子どもとその家族のための施設だ。施主はこの地域に根ざす、在宅医療に特化した医療法人かがやき。在宅医療と訪問看護のステーション、地域住民との交流の場を備えた同法人の社屋「かがやきロッジ」(2017年竣工)に続き、安宅氏がこの敷地内で手掛ける2つ目の施設となる。
体を動かすことや話すことが困難であったり、人工呼吸器やチューブからの栄養補給が必要であったりする子どもたちの施設をつくるにあたり、施設長が重視していたのは「圧倒的な感覚刺激量を楽しめること」だった。さまざまな研究から、重度の心身障がい児も体や知覚への適切な刺激を与え続けることで能力が発現しやすくなることが明らかになってきた。そのような刺激を量的に与える環境づくりに建物としてどう貢献できるか。安宅氏が提案したのは、子どもたちが施設内を行き止まりなく移動できる回遊性と、起伏に富み、多様な表情をもつ天井だ。一般的には梁の下部に合わせて天井を低く張るか、建物の高さまで天井全体を上げて空間を確保するが、「かがやきキャンプ」では梁のある所では天井を下げ、梁のない所では天井を上げて起伏をつくりだしている。
「自分では首を動かせずにずっと斜め上を見ている子どもが、バギーに乗せられて移動していく間に天井が迫ってきたり、空間が大きく開いたり、明るくなったり暗くなったりという空間的な変化が起こり続けていく。体が動く子どもには、その変化が先へ行ってみようという移動の動機になる。そういうものが、建物が与えられる刺激の一つではないか」と安宅氏は語った。
この地に生まれた懸命に成長しようとする命を、「かがやきキャンプ」はもう一つの家のように包み込み、ケアの一翼を担い、支え続ける。地域医療のための建物の新しい有り様がここに提示されている。