生きることとSTEAM

小堀:「働く」、「生きる」というのは人間の根本的な喜びなのだと思います。今、声が聞こえてくる「できるだけ働きたくない」というのは、つまり「生きていない」証拠なのでは、と思っていて。「生きる」とは自分が一生懸命してきたことが人に生かされ、自分にも生かされている状態であり、それが仕事だと思っています。だから一生懸命仕事することとは、すごく幸せなことなのでは、ということにつながっていきます。

今まさに、本当に「生きる」とはどういうことかを議論しておかないと、日本は危機的状況に陥ると感じています。中島さんのニューヨークでの話を聞くと、本当にみんな学びに対して24時間365日真剣に取り組んでいます。

中島:「学ぶ」と「働く」と「遊ぶ」は一緒でしたね。

小堀:そうした遊びと仕事の区別がない、全力投球で「生きる」感じがSTEAMの中に生きていますし、それが茶室の中にも生きていることを今回知りました。「日日是好日」、「歳月人を待たず」などはまったく同じことを言っています。「今をしっかり生きているか?」、「時間はないよ」と。日本人はかつてそういう哲学的なことを根底に持っていたから、茶室の歴史はずっと進化してきたのだと知りました。

茶碗を回す意味も実に面白かったですね。まず亭主が客に茶碗の図柄の良い方を向け、客もいただいた後は同じく図柄の良い方を返します。つまり、亭主の気遣いに客も気遣いを受け取って返す、というお互いの気遣いの意味なのです。

中島:日本の文化に隠れた精神性は本当に奥が深いですね。

小堀:お茶を飲む前に「お先に」と言うなど、常に次の人のことを考えてお茶を入れ、飲む世界。

中島:お作法はすべて意味があり、それを考え理解した上なら、違うことが出てきてもいいかもしれない文化でもありますね。意味がまた自然というか。

小堀:人との関係性の中で自分がどう役に立つか、自分を幸せにするかという哲学が茶室の中に満ちていると気づきましたね。

中島:今回「茶室をつくる」というお題に、実に多くの方が関わって下さいました。「つくる」は最大の学び。子どもたちだけでなく私たち自身多くのことを学びました。

小堀:そう、その哲学が分かっていれば、つくるものは何でもいいのです。

中島:仕事のおもしろいのはそういうところですよね。「学ぶ」は一生懸命テストを受けることや、「働く」も何か面倒なイメージと思いながらやりがちですが、実はそこに「喜び」があるのだと。今回子どもたちも今回のプロジェクトで働いていただきましたが、真剣に取り組んで、自分ならこう考えると、楽しんでくれていました。

小堀:建築はある意味ものづくりをしながら芸術をするようなものです。さまざまなプロジェクトがありますが、すべて問題提起です。それに対して理解しながら、建築というものづくりを通してどう解決するか、なのです。それを学生の時からずっと演習しているから、建築以外のプロジェクトもすべて構築的にアーキテクチャーとして考える感覚を学生たちは持つことになります。

中島:建築はSTEAMですね。そしてSTEAMは建築。

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