ワークショップを通じて磨き上げたアイデア。東京大学ヨット部合宿所が葉山に完成。
アーキコンプレックス

南側外観。船体用通路(写真左)には競技艇、建物正面(写真右)には小型艇が置かれている。

東京大学ヨット部は創部が1938年と古い歴史を持ち、週末や長期休暇の時期には葉山を中心に合宿を行なってきています。これまで使用してきた合宿所から拠点を移し新築するにあたり、多数社との選考を経て起用された『アーキコンプレックス』がイメージしたのは、「全員が乗るヨット」でした。

同社が設計を行なう際に必ず行なうのが施主や利用者を交えたワークショップです。実際に使う学生たちがどう使いたいのか、どうしたら使いやすいのか、合宿において大切なことを聞き取り、話し合い、設計に落とし込んでいったそうです。

1階の男子寝室兼ミーティングルームヨット用具が並ぶ広間。地域の方々とのワークショップも開催できる。

3階の談話室テラスからは相模湾や江ノ島、富士山を一望できる。

真上からの空撮(ソーラーパネル設置の建築が当該施設)。南北それぞれの崖条例の規制角度に最大限配慮し、山に沿って計画された木造3階建て。北側には船体置き場がある。

「全員が乗るヨット」。ヨット競技はチームワークが必須のスポーツ。だからこそ海上だけでなく地上でもチームワークを取ることができるようにと、各階すべて大空間のみに設計されています。

ちなみにヨット競技は男女の区別がありません。東京大学ヨット部でも年々女子部員が増えているそうです。そこで、シャワー室は男女の動線を作ることでプライバシーの条件もクリアしました。さらにサステナビリティも重視し、キッチンをオール電化にし、シャワーも含めてエネルギーを屋上に取り付けた太陽光発電で補完しています。

船体用通路。学生たちが船体用通路を通り、船体置き場へと競技艇を運ぶ。

船体置き場。西側壁面にはヨット用具のためのラックがあり、学生たちが葉山港へと向かう準備を行なう。

最大の問題は立地条件でした。敷地となる場所は開発許可を必要とし、逗子市の3種類の建築条例・崖条例をクリアせねばなりません。しかし、かかる時間は部員やOBの新しいアイデアを生み出す時間となり、RC造、RCと木の混構造、在来以外の木構造といった構造的レパートリーをすべて洗い出す期間にもなりました。最終的には、崖条例の規制断面線から削り取られたかのような平行四辺形の平面を持つ、無駄を極力排除した形に収れんされていったのです。

敷地的制約、利用者の利便性、一つひとつはワークショップという“話し合い”の末に生まれた、誰もが達成感を覚える建築になっています。

南側外観。部員不在時でも近隣に安心感を与えるように、定刻で外構照明を点灯。

 

【敷地概要】
・所在地 神奈川県逗子市桜山9-3-11
・用途地域 第一種住居地域 
・防火地域 22条地域
・地域地区 土砂災害警戒区域、逗子市まちづくり条例、逗子市景観条例、逗子市の良好な都市環境をつくる条例
・敷地面積 405.47㎡ 

【設計・監理】
・基本設計 有限会社ARCHICOMPLEX一級建築士事務所
・実施設計 有限会社ARCHICOMPLEX一級建築士事務所    
・事業主 一般社団法人ライトブルーセーリングクラブ
・施工 株式会社三峰エンジニアリング

【期間】
・設計期間 2020年12月~2023年2月
・工事期間 2023年2月~2023年8月

【建物概要】
・主要用途 寄宿舎
・工事種別 新築
・建築面積 107.66㎡
・延床面積 295.10㎡
・各階床面積 3階:87.64㎡
・2階:99.80㎡
・1階:107.66㎡
・建蔽率 26.81%
・容積率 73.48%
・構造規模 木造3階建て
・最高高さ 9.40m
・最高軒高 8.95m

撮影 株式会社鳥村鋼一写真事務所

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