【GLASS :#01】ガラス作りの歴史 ~8つの製造法~
こんにちは。建材ダイジェスト編集部です。今回から新企画が始まりました。その名も「Material Journey(マテリアルジャーニー)」。「建材の旅人」(直訳だと「素材の旅人」ですが細かいことは気にしない)と題して、様々な建材の歴史、特徴、製品などを包括的に扱うというプロジェクトです。
私たちを陰に陽に支えてくれる建材たち。それらを根本から調査して記事にすることで、皆様の建材に対する興味が深まれば幸いです。
それでは早速見ていきましょう。第1回目はガラスの作り方の歴史を特集します。
ガラスの発見
ガラスの歴史は、紀元前3000年頃のエジプト第1王朝時代まで遡ります。当時は実用品ではなく、装飾用に使われていたようです。ビー玉を身に付けるイメージですね。
建材として使われ始めたのは1世紀頃の古代ローマ時代。ポンペイの遺跡から、ガラスの使用が確認されています。嵌め殺しの天窓として使われていました。
この頃は砂を固めた鋳型(いがた)に、溶融ガラス(溶けたガラス)を流し込んでいました。透明度は今に比べれば低かったでしょう。しかし当時としては、部屋を密閉しながら光を取り入れること自体が画期的だったと考えられます。
ガラスの製造技術<古代~中世>手吹き工法の発達
クラウン法
4世紀はじめに手吹きガラスの技法が発明され、以降様々な方法が開発されていきます。
「クラウン法」は最初期の手吹き工法です。吹き竿を吹いて膨らませたガラス球を、竿から切り離して回転。遠心力で平らにします。竿からガラスを切り離したとき、ガラス中央に竿の跡が残ります。それが王冠(クラウン)のように見えたので、この名がつきました。
初期の頃はビール瓶の底程度の大きさしか作れませんでした。そこでガラスを鉛の枠で繋ぎ合わせて窓にはめる方法が登場。これをロンデル窓と呼びます。
ちなみに色ガラスを繋いだ物が、ご存知ステンドグラス。中世の教会で広く使われました。
クラウン法はその後何世紀もかけて、より大きなガラスが作れるように改良されていきます。
キャスティング法
1668年、フランスのド・ヌーが「キャスティング法」を発明。銅製のキャスティングテーブルを鋳型にして、そこへ溶融ガラスを流し込みます。そしてローラーで平らに成形。従来よりも大きな板ガラスを作れるようになりましたが、ガラス表面にローラーの跡が残ります。そのためガラスを磨く必要がありました。この研磨作業が大変だったようです。
シリンダー法
1800年頃、産業革命初期に「シリンダー法」が発明されました。吹いたガラスを円筒形に整えて、上端と下端を切断。筒状になったガラスを切り開いて長方形の板にします。これにより大きな板ガラスを製造できるようになりました。
ラバース法
1902年、アメリカのラバースがシリンダー法を機械工業化しました。それが「機械吹き法(ラバース法)」です。この方法を用いて、板ガラスが大量生産されるようになりました。
ガラスの製造技術<近代>機械を使った大量生産の工法
20世紀に入ると、大量生産するための製造方法が開発されます。
蓄熱式加熱法
1850年代、ドイツのジーメンス兄弟が蓄熱式加熱法による溶融窯を発明。
吹きガラスによる製作では「るつぼ窯」を使い、板ガラスが完成するまでに冷却と加熱を何度か繰り返す必要がありました。この方法の課題は、生産性が低いこと。それを解消したのがジーメンス兄弟の蓄熱式加熱法です。
高温を長く保つことにより、ガラスを溶かすところから仕上げまでを、連続して行えるようになりました。これが近代のガラス工業生産の画期となったのです。
フルコール法、コルバーン法
機械吹き法の発明と同時期に、ベルギーのE・フルコールが「フルコール法」を発明しました。
この方法では、溶融ガラスに「デビトーズ」と呼ばれる装置を押し込みます。デビトーズの中心には平たく細長い空間があり、ガラスはその空間を上に向かって進んでいきます。その過程で徐々に冷却。デビトーズを出る頃には板ガラスになっているという寸法です。
同時期に再びアメリカで、I.W.コルバーンにより「コルバーン法」が生まれました。フルコール法と同様の原理を改良したもので、板ガラスの大量生産が可能になりました。
日本では1928年、旭硝子がフルコール法を導入しています。
フロート法
1959年、イギリスのピルキントン社が「フロート法」を発明。これが現在まで続く工業用ガラスのスタンダードになりました。溶けたガラスを、溶融金属(スズ)の上に流し入れます。ガラスとスズは比重が違うので、ガラスはスズの表面に浮き上がります。
浮いた(フロートした)ガラスは平らに広がります。イメージとしては水に浮かべた油。それを徐々に冷やしていくこと(徐冷)で板ガラスにするのです。
フロートガラスは「普通ガラス」とも呼ばれています。しかしこれが「普通」になったのは、歴史的にごく最近のことだったのですね。
ロールアウト法
「ロールアウト法」は、網入りガラスや型板ガラスを作るときの工法です。1920年頃に登場しました。溶融ガラスを上下から2本のロールで挟み、引き伸ばして板ガラスにします。
網入りガラスの場合は「ガイドロール」という装置を使います。金網をガイドロールに沿わせて、溶融ガラスと合体。網入り板ガラスとなってロールから顔を出します。
型板ガラスの場合は、下側のロールに模様を彫ります。そこを溶融ガラスが通ることで、ガラスに模様が刻まれるのです。
まとめ : ガラスの歴史は奥が深い
本記事で紹介した製造方法を表にまとめました。
年代 | ガラス製作方法 |
---|---|
4世紀~7世紀 | クラウン法 |
1668 | キャスティング法(フランス、ド・ヌー) |
1800頃 | シリンダー法 |
1850代 | 蓄熱式加熱法(ドイツ、ジーメンス兄弟) |
1900代初頭 | ラバース法(アメリカ、J.H.ラバース) |
1910代 | フルコール法(ベルギー、E.フルコール) |
コルバーン法(アメリカ、I.W.コルバーン) | |
1950代 | フロート法(イギリス、ピルキントンブラザーズ社) |
私たちの日常生活に欠かせないガラス。そこには長い創意工夫の歴史がありました。その道のりに思いを馳せるとき、感慨深いものがあります。
いかがでしたか。「マテリアルジャーニー」では、各ライターたちが建材に関する知識・情報を深掘りしていきます。読んでいただき、ありがとうございました。
参考一覧
- 日本建築学会『ガラスの建築学 光と熱と快適環境の知識』学芸出版社、2004年
- 日本建築学会『ガラス建築 意匠と機能の知識』学芸出版社、2009年
- 森 哲「板ガラス製造技術発展の系統化調査」
http://sts.kahaku.go.jp/diversity/document/system/pdf/035.pdf