【ソイル左官】生産から廃棄まで配慮した唯一無二の土壁材 #14 株式会社 KS AG
2024.11.28
連載企画『メーカーさんの一推し製品』/建材メーカーを含むサスティナブルな活動を行う企業に独占取材!彼らの一推し製品についてお話を伺いました。
生産から廃棄まで環境配慮に徹底した、唯一無二の土壁材「ソイル左官」
株式会社 KS AGは、環境保護と持続可能な塗り壁材の販売からスタートし、近年ではさまざまなプロジェクトに参加しながら活動の幅を広げています。代表の境さんは、環境先進国であるドイツでの10年間の経験を活かし、創業当初にEcotec(エコテック)社の「ソイルペイント」という環境に優しい塗料を日本で初めて販売しました。このソイルペイントの販売をきっかけに、建設残土を再利用した「ソイル左官」の製造および施工へと発展していきます。
今回、代表取締役の境さんに、その土地で出る建設残土を使った土壁「ソイル左官」をはじめたきっかけや、これまでの歩み、今後のビジョンについてお話を伺いました。
株式会社 KS AG
代表取締役
境 洋一郎さん
ー会社設立のきっかけや経緯について教えてください。
きっかけは、私が20代の頃にドイツに10年間滞在していた際に、知人であったソイルペイントメーカーEcotec社の創始者から、”日本でこの商品を販売できないか?”と声をかけられたことです。
当時、この事業を始めるか迷っていましたが、Ecotec社の工場見学をした際に、非常に信頼できる工場だと安心し、『株式会社 KS AG』を立ち上げました。
ーEcotec社(エコテック社)とは、どのような会社でしょうか?
Ecotec社は、ドイツに拠点を置く企業で、製造過程だけでなく、製品の廃棄後まで含めた環境負荷の低減に取り組んでいます。特に、Ecotec社が開発したソイルペイントは、世界に先駆けて最も安全な塗料とされています。
Ecotec社の基本理念は、『原材料は自然のものだけを使い、地球環境にダメージを与えず、関わる人々に害を与えないこと。』この理念を基に、事業を営んでいる企業です。
Ecotec社が開発したソイルペイントと主な原料
ーとても素敵な理念で活動される企業ですね。
それでは、今回ご紹介いただく「ソイル左官」について教えてください。
ソイル左官は、『建築業界の地産地消』を重視しており、その土地で発生する建設残土をアップサイクルして作った土壁(左官壁)です。基礎を掘る際には、多くの場合、建設残土が発生し、これが産業廃棄物として廃棄されることが一般的です。この問題を、Ecotec社の理念に基づいて解決できないかと考え、当社独自の環境に優しい土壁を開発しました。このソイル左官は、調湿性や呼吸性※にも優れ、不燃認定も取得しています。色味については、着色・調色も可能ですが、その土地の土色をそのまま使用することもあります。
※呼吸性とは、左官材の場合、空気の流れを促進し、室内の空気質を改善することを指します。
左からソイル左官の施工イメージとサンプル写真
ーこのソイル左官の製造において、特に手間がかかる工程はありますか?
乾燥させた建設残土を手作業でふるいにかけて漉す工程ですね。この作業を丁寧に行うことで、きめ細かい土壁の材料となっていきます。現状では、完全に手作業で行っており、数人で協力しながら淡々とこの作業を進め、数日かけて完成させてから袋詰めを行います。
左から、ビニールシートに広げて乾燥する工程と乾燥した土を漉す工程
ーこれは、とても地道な作業ですね。ソイル左官については、材料製造から施工まで一貫して行うとの事ですが、施工面のポイントや試行錯誤した点はありますか?
まず、その土地によって土の特性が異なるため、施工職人の知識と経験によって、それぞれの土地の性質に合った施工方法を確立することですね。
本来は、調湿性や呼吸性もあるため、内壁向きの左官材ですが、外壁としての依頼も多く、外壁用となると、難易度は格段に上がります。特に、厚みが数ミリ単位で増すほど、表面が剥げやすくなるため、耐久性の観点からも職人の高い技術が求められます。そのような場合は、モルタルと混ぜることによって耐久性を担保するなど、職人の知識と経験を駆使して、より良い施工方法を模索しています。
ーなるほど。実際に、ソイル左官を使用した施工例をご紹介ください。
商業施設やオフィス、大学や戸建て住宅に使用いただくことが多いです。ソイル左官は內外壁問わず、どちらの採用もありますが、広島にある大学ではエレベーターホールの一角に採用いただきました。
大学などのプロジェクトでは、お施主様からのご提案で、様々な参加者を募りワークショップ形式で塗装を行うこともあります。目的としては、その地域の建設残土を使用し、参加者が楽しみながら愛着を持てる体験を提供することです。こうした参加型のプロジェクトは、環境的にも社会的にもとても意義があると感じています。
ーこれまでのプロジェクトの中で、特に印象深い建築物はありますか?
東京都の武蔵小山にある商業施設『かなめの杜』プロジェクトですね。
川島範久建築設計事務所から、かなめの杜の外壁について、雨水を流しても問題ないソイル左官を使用したいとの依頼を受け、外壁を中心に外構や内壁など多くの場所に採用いただきました。屋上の外構基盤の構築では、雨どいを設けずに、降った雨を保水・浄化し、地下水を涵養※(かんよう)する方式を取り入れて、屋上に循環させるという革新的な内容でした。この仕組みは商業施設の南北で行われており、とても興味深い設計だったことが印象に残っています。
※涵養(かんよう)とは、雨水や水の流れを地下に浸透させて、地下水の量を増やすことを指します。これにより、地下水資源を保全し、持続可能な水利用を促進します。
かなめの杜のソイル左官を用いた外壁
ー雨どいなしで雨水を循環させる設計は革新的ですね。KS AG様が今後のプロジェクトを通して期待することはありますか?
当社の強みは、他にない天然材料と、質の高い唯一無二の職人の掛け合わせです。この部分は他社では真似できないところだと自負しております。
だからこそ、建築関係者の皆さまには、当社にお願いしたいと言っていただけるように、日々しっかりとチームを組みながら実績を重ねていきたいと考えています。そして、このような実績や新たなチャレンジをPRすることで、社会に斬新さをもたらす面白いプロジェクトに声をかけていただけることを期待しています。
ーありがとうございます。最後に、ソイル左官を通してこれからチャレンジしたい事やビジョンについて教えてください。
もっと日本の土や、産廃してしまう建設残土の需要を上手く作れるようにしていきたいですね。Ecotec社の理念にもある『廃棄するまで環境にやさしく』という想いは、当社も創業当初から掲げています。今の時代は、環境配慮を謳った生産商品は増えてきていますが、廃棄まで一貫して行っている会社は多くない印象です。だからこそ、環境負荷の低い材料や工法を用いて、生産から廃棄まで一貫して行うことを念頭に、日々チャレンジを続けていきたいと思っています。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
株式会社 KS AG
▼お問い合わせはこちら
https://www.hilari.co.jp/contact
※お問い合わせの際はCLASS1 DIGESTをみたと
お伝えいただけるとスムーズです。
本社
〒107-0062
東京都港区南青山 3-4-8-302
アトリエ
〒150-0001
東京都渋谷区神宮前 2-5-6-306
TEL:03-6821-0635
https://www.hilari.co.jp/
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
| 編集後記
今回お話を伺ったKS AG様は、過去のCLASS1 ARCHITECT Vol.16でもご紹介したメーカーさんです。代表の境さんからソイル左官の開発ストーリーをお聞きするなかで、全国各地で深刻な社会問題となっている産廃土に着目した点がとても素晴らしいと感じました。同時に、まだまだ多くの業者さんがコストや生産性を重視していますが、産廃土もひとつの資源として見つめていただける境さんの挑戦を、今後も応援しています。