【チタンスパッタリングカーテン】
幼い頃、隣家との間隔が十分にとられているおおらかな環境で育った畑氏にとって、カーテンとは「寒いから閉めるもの」だった。やがて都会で暮らすようになってから、都市においてカーテンが「視界をコントロールするためのもの」と認識されていることに対して、「こんな暮らし方が人間にとって本当に良いのか?」という、どこか窮屈な感覚を覚えたという。
「大地の家」ではせっかく生態系を内に取り入れようとしているのだから、視界を遮るような素材は意味がない。だからこそ畑氏は、Studio Akane Moriyamaの森山茜氏に、内と外を溶け込ませ、現代の住宅環境に沿うようなカーテンを依頼した。
そして生まれたのが、シルクにチタンの粒をスパッタリングしたカーテン。微風でもなびくほどの軽やかさがあり、組み込まれたチタンが日差しを反射させることで、見事に光と風を室内に取り込んだカーテンになった。階によってチタンの量が違うため、そのグラデーションも楽しめるようになっている。
ファブリックから空間を見る
森山さんは現在スウェーデンに活動の拠点をおかれているファブリックデザイナーです。デザインだけでなく、ご自身でファブリックの製作もされています。「大地の家」の前にもいくつか一緒にお仕事をさせていただいたことがあり、今回もお願いしたいと思っていました。森山さんはファブリックというマテリアルから、空間全体を見ていらっしゃるように思います。つまり、ファブリックのみにピントを合わせたつくり方ではなく、風を受けたときの動きや光の反射・拡散・透過など、空間的な現象を引き出すものとして製作されるところが、私は特に興味深く感じています。
遮る・遮らないを選択できる
都市部は密集しているので何らかのスクリーンが必要になるのですが、森山さんには、「何かを遮断するためにあるのではなくて、むしろ何かとつながるためにあるようなカーテンを考えて欲しい」と依頼しました。変な言い方になりますが、「建物の内に引き寄せた生態系を、ファブリックを吊るすことでもっと内側に引き寄せてください」と言いたかったんです。寝室などちゃんと遮光したい場所はダブルで吊って不透明にしたりもしますし、グランドレベルでは歩いている人とお見合い状態になるのでチタンの量を多くして、上階になるにつれてだんだんチタンの量を減らしてもらいました。
建材開発秘話
ファブリックをコンセプトからイメージ
基本的に建築を考えるようにテキスタイルを考えているので、テキスタイルデザインをするときは、まず空間を考えてそこから素材に落とし込んでいきます。今回も畑さんから建築をどういう風に考えられているかをお聞きして、そこにテキスタイルがどういうアプローチができるか、ということを考えながらデザインを進めました。今回は建築の素材の話をお聞きしたとき、硬いチタンをどう柔らかく空間に取り入れられるかな、と思ったのが始まりでした。
チタンを飛ばすスパッタリング
詳細は企業秘密のようですので、過程を詳しくお知らせすることはできないのですが、真空の装置の中で、チタンの分子を飛ばして直接布の表面に金属を定着させるのがスパッタリングという技術です。今回のカーテンは、チタンを吹き付けることで遮熱効果があり、また光を反射するので視線を遮る効果もあります。階や部屋によってある程度の視線の遮断が必要でしたので、チタンの量を変更し、3~4種類のカーテンを製作させていただきました。
テキスタイルの力を引き出す
自然が可視化されることは私の製作のテーマというより、テキスタイルという素材が持っている元来の力のような気がしています。私の仕事はそういったテキスタイルの力を空間にうまくフィットするようにデザインすることだと思っています。製作も自身で行っているのは、素材と色などの相性を手で確かめながら進めるのが一番確かな方法だと実感しているからです。加工の過程を他者に任せるときも必ず実際のサンプルを見てもらいながら進めています。
チタンスパッタリングカーテンの特徴
非常に軽い素材であるシルクは、わずかな風も逃さず、ふわっと、ゆっくりと揺れることで、目に見えない風を見せている。
カーテンに吹き付けたチタンが日光をバウンスさせるように室内に取り込むため、直射日光では感じ得ない光の広がりを見せる。
光や視線をやわらげつつも、建物の外側にある生態系をシルエットとして内側に伝える透過性を持ち、生態系をより近くに引き寄せる演出に。