痕跡を活かすクリエイティブ建材とは。
京都市京セラ美術館

つくり手の痕跡を残し歴史を積層する
次世代に求められる保存のあり方

「京都市京セラ美術館」は、京都市左京区の岡崎公園内に位置する、日本最古の公立美術館だ。1933年に開館以降、およそ80年にわたり親しまれてきたが、老朽化や耐震性の問題などから改修・増築が行われた。プロジェクトの要となったのが「保存と活用の両立」。文化財的な価値のある建物を、時間を止めたように保存するのではなく、現代のニーズに合うように活用するのが今回の目的だ。50年後、100年後に現在とニーズが変わり、仮に完全に元の状態に戻すことになった時も、今回の改修の履歴がわかるようにした。「その時担当した設計者の痕跡を残すことで、新たに関わる建築家も建物が歩んできたこれまでの歴史にアプローチできる。思考が積層されること、それが本当の意味での保存ではないか」と西澤氏は語る。

今回の改修で新設したものといえば、「ガラス・リボン」だ。かつて下足室だった地下1階を新しいエントランスにすることで、自然と来館者を招き入れる構造となった。正面玄関と前庭の境目に生まれた断層のような隙間にガラスをはめ込み、新たな空間が現れたことを表現。外からも中央ホールの大空間への階段が見通せるようになっている。夜になるとライトアップされることによって、本館の建物がまるで「ガラス・リボン」の光の帯の上を浮遊しているようにも見える。ファサードのレンガタイルに対比した素材としてガラスを選択したことで、より建物の重厚さが際立つ効果が生まれた。

設計者以外にも文化庁や美術団体など多くの関係者の意見集約が求められるなかで、景観都市・京都における保存のあり方を見つめ続けた西澤氏。京都工芸繊維大学の石田潤一郎名誉教授や京都大学の門内輝行教授などの応援やアドバイスを得て、美術館の保存と活用は成し遂げられた。これまで関わった者たちの知恵や思いは風化することなく、未来への糧として建物の歴史とともに積み重なっていく。

京都市京セラ美術館
京都市京セラ美術館

所在地 / 京都府京都市
設計 / 青木淳・西澤徹夫設計共同体(基本設計・監修)
松村組・昭和設計(実施設計)
施工 / 松村組