失われた営みを蘇らせる建材とは。
消滅集落のオーベルジュ

富山で人気を博すシェフ谷口英司氏のフレンチレストラン「レヴォ」が2020年12月、宿泊施設等を伴ったオーベルジュとして南砺市利賀村に移転オープンした。利賀村は豪雪地帯であるうえに、「レヴォ」が建つ敷地の集落「田之島」は約20年前に住民の人口が0人になったいわゆる消滅集落で、生活利便性には乏しい。しかし、厳しい冬が過ぎ春を迎えると野山は一気に命を吹き返し、上質な食材の宝庫となる。谷口シェフは料理人としての集大成となる店をこの地につくり、自身が惚れ込んだ富山の食材と自然の尊さが注がれた地産地消の一皿を、ゲストが全身で堪能できる空間を望んだ。

 「当時集落があった頃と同じように建てていくことで、その地で暮らしていた先人の知恵が備わった建ち方になるのではないか」。それが、土地を活かした建築、つまり「建物としての地産地消」とは何かを考えていた本瀬氏と齋田氏が辿り着いた答えだった。消滅前の集落の宅地図を参考に配棟を決め、当時使われていた民家の外壁や建具を再利用。「雪割り」と呼ばれる豪雪地帯特有の屋根も、その役割を踏襲しつつ現代的な形状にデザインした。これは、純粋な集落の復元ではない。地縁がなく富山出身でもない二人だからこそ持っていた思考と、現代技術の融合による「翻訳」である。

「当初はお客さんをもてなす空間として万全を期する設計を考えていましたが、設備やスペックにすべて頼るのではなく、この土地の人の営みも含めて“地産地消”と捉え直したことがプロジェクトの岐路でした。また、今回の敷地は集落が消滅してからも最後の住民がずっと水源の管理をしていたり、近隣集落の方々が敷地の管理をしていたそうです。設計や施工以前に、かつての住民の努力があったからこそ今回の施設の実現につながったのだと思います」と二人は語る。地産地消の建築は、消滅集落の面影を残しつつその姿を更新し、無二の景色をつくり出している。

消滅集落のオーベルジュ
消滅集落のオーベルジュ

所在地 / 富山県南砺市利賀村
設計 / 本瀬齋田建築設計事務所 サモアーキ
施工 / 近藤建設株式会社
アプリならマガジン新着情報がすぐに届く
iPhone の方は こちらから
App Storeからダウンロードする
Android の方は こちらから
Google Playからダウンロードする
アプリならマガジン新着情報がすぐに届く
今すぐ ダウンロード