映画という体験を記憶するための建材とは。
京都みなみ会館

多世代が何度も訪れたくなる
非日常への仕掛け

その源流は1950年代まで遡る、歴史あるミニシアター「京都みなみ会館」は、2019年8月、旧銀行として建てられたビルへ移転しリニューアルオープンを果たした。建築を手掛けた島田陽氏にとって、この映画館は京都市立芸術大学で学んでいた頃からなじみの場所だ。依頼者である若き館長からは、建物を活かしつつ「映画がスマートフォンでも見られる時代に、わざわざ足を運びたくなる空間を」と要望された。

「映画とは体験である。上映前の高揚感や後の余韻、誰かと分かち合いたくなる感動すべてが映画だ」と島田氏は捉え、それを盛り上げ、かつ邪魔しない、体験全体が良き思い出となる空間を意図して設計した。1階は、自身も通い長年愛されてきた旧館時代の雰囲気を引継ぎつつ、建物の正面位置を大胆に変更し、法規上の課題をクリアした。2階は新しさの創出に挑み、避難経路など階移動のための空間をすべて外部に出して増築。以前の館には無かった2つのシアターを増設した。昼夜の光を反射し表情を変える金網で階段周辺の構造体を覆い「スクリーンをくぐる」ような非日常への誘いを意匠に取り込んだ。各所の細部に角度によって煌めく素材や意外な色を用い、何度訪れても発見があるよう遊びを忍ばせた。

黄金期には市内に70余りあった映画館は今、「京都みなみ会館」を含む数館のみ。街の暮らしと地続きであるこの路面の映画館には、昔も今も多世代が集う。多様な人々が映画という同じ夢を共有する場所が街の中にある意味を映し出しながら、「京都みなみ会館」はさらに50年、100年先の未来へと続いていく。

京都みなみ会館
京都みなみ会館

所在地 / 京都府京都市
設計 / タトアーキテクツ