大きな模型から生み出された
周辺の山と一体化した家
海からもほど近い静岡県。大きな山を切り開いた造成地の一角、山の斜面のヘアピンカーブのような急な曲がり道に沿って建てられた邸宅が、今回紹介する「桃山ハウス」である。都内在住の施主が二拠点居住のための土地を探すなかで、植栽や庭のブロック塀、そしてカーブに沿って囲むようにつくられた擁壁に都会では得がたい時間の積み重ねを感じ、この土地の購入を決めた。
初めて敷地を訪れた中川氏は、敷地のあるこのエリアに多様な色彩を感じたという。「山を切り開いた場所なので、まち全体がコンクリートや石などグレーなものに囲まれている。『グレー』といってもこんなにさまざまな色があるのかと思いました」。この環境に調和する建物をつくるためには、この敷地にあるものを巻き込んで設計することが重要だと考えた中川氏。そこで、既存の擁壁を外壁に見立てて大きな屋根をかけるプランを考えた。
具体的な設計にあたり、中川氏が準備したのは畳サイズよりも大きい模型。施主とともに模型を覗き込みながら、実際に現地にいるような感覚でディスカッションを進めていった。
「図面では体感的な良し悪しが共有しにくいため、どんなプロジェクトでも模型を議論の真ん中に置いて進めていきます。ハサミで切ったり貼ったりしながらお施主さんと一緒に設計を進めていったことで、模型だからこそ発見できたアイデアもありました」
模型にすることで見えたもの。その一つが柱だ。通常柱は屋根を支えるために屋根の下にあるものだが、「桃山ハウス」では屋根の外側に飛び出している柱がある。「屋根の下に柱があると屋根とそれ以外が分かれてしまう」ことに、模型だからこそ気づいたのだそう。模型を通して敷地と敷地周辺を合わせて考えることもできるため、周囲の環境と補い合うような建築を追求することができた。
山と一続きになるような心地よさと大らかさを持つ「桃山ハウス」。さらに時間を積み重ねていくことで、この土地の景色に欠かせない存在へと醸成されていく。