This issue’s CLASS1 ARCHITECT

湯浅良介
RYOSUKE YUASA

建築家

1982年 東京都生まれ
2010年 東京藝術大学大学院修了
2010年-
2018年
内藤廣建築設計事務所勤務
2018年- Office Yuasa 主宰
2019年- 東京藝術大学 教育研究助手
2022年- 多摩美術大学 非常勤講師

主な受賞歴

2008年 第4回ダイワハウス住宅設計コンペ最優秀賞受賞
2009年 シェルター学生設計競技2009奨励賞受賞
2010年 東京藝術大学吉田五十八修了制作賞受賞
2010年 東京建築コレクション2010内藤廣賞受賞

主な作品

2018年 HOUSEHOLD
2019年 Meets the Needs
2019年 BACK STAGE2020 COOKTOWN
2021年 3F
2021年 FLASH
2022年 となりはランデブー

建築家を志したきっかけは?

大学生の頃、写真を撮ることに夢中になり、そのうち現像された写真よりも訪れた街や撮影した対象に興味がわいて「被写体にもなりうる景色をつくりたい」と思ったのがデザインを志したきっかけです。医療系の大学を中退して進んだ美大の環境デザイン学科でインテリアや建築、都市、ランドスケープまで全てデザインできるようになりたいと思い至り、大学院で建築科へ進みました。そのため写真や美術、景色の延長に「術として建築がある」という認識が強いと思います。卒業後、内藤廣さんの下で建築のいろはを叩き込んでいただき、そこで得た知識や経験が、どんな対象でも設計できるという自信につながっています。

思い出深いプロジェクトは?

内藤廣建築設計事務所時代に担当していた「富山県美術館」がその一つです。現場監理のため2年間富山に常駐していた時、僕の人生にとってかけがえのない友人や仲間に出会えました。独立して初めて設計を依頼してくれたのもこの時知り合った富山の友人夫妻で、「HOUSEHOLD」「となりはランデヴー」などのプロジェクトへとつながり、今でも交流が続いています。

ガラスから連想するプロジェクトは?

ガラスの持つ透過と反射という2つの効果を利用したプロジェクト「FLASH」です。ものの数を操作することでそのものが持つ意味の変容を誘発できないかと考え、その操作に使用したのがガラスでした。各部屋を隔てる欄間にガラスをはめ、それを中心にあらゆるものを対称に配置し、鏡で反射しているのかガラスで透過しているのか判然としない状態をつくり出しました。

内藤廣建築設計事務所に入所した理由を教えてください。

学生の頃建築雑誌でよく見かけていた建築に対して漠然と「明るくて綺麗」という印象がありましたが、そのような印象と自分の中の建築像がなかなか結びついていませんでした。そんな中、内藤さんは卒業設計で生から死までを考えて設計していたり、その後作られている空間でも、つくるものの中にちゃんと「暗さ」を持っているところに惹かれました。そこから内藤さんの講演会に積極的に参加したり本を読んだりするうちに、設計された空間だけでなく内藤さんの人間味があるところや人柄に惚れて、内藤事務所に入ることを決めました。

設計において意識していることは?

「人がものごとに対して抱くイメージをいかに自由に扱えるか」を、設計のテーマとしているのかもしれません。「となりはランデヴー」では、窓の内側に設けた断熱建具が外から見るとおかしな落書きのように見えます。それは、街の中になんだかよくわからないけれど気になる場所、秘密めいた場所をつくることで、この街で暮らす人や訪れた人が抱く街のイメージに奥行きを与えることができるのではないか、と考えたからです。私はそのような「イメージの現れ」としての空間に興味があって、自分が設計したものによって誰かの思考を少しでも自由にできたら、と考えているのだと思います。

「FLASH」に込めた意味とは?

「FLASH」という名前は2つの意味で使っています。1つは「ハリボテ」。柱だけは剥き出しですが、その他はあらゆる加工が基本的に安価なケイカル板やラワンベニヤ板が使われ、かつ塗装で隠されているハリボテ的なところがあります。そういったところを若干アイロニー的に「FLASH」と言っています。

もう1つは「瞬間」。設計当時「時空と時間」に興味があり、関連する本を読みながら設計していました。住宅はお店や公共施設のように、あるときだけ訪れて経験するものではなく「朝から晩まで、何年も何十年も過ごしたり出入りしたりする場所」。設計者として、そういった時空の中の竣工というある一点としての時間を設計するにあたり、本に出てくる「宇宙的なリズム、プロポーション」、「円環、永遠に続く」といった言葉から着想を得て、その一点の時間はずっと続いているものの一部を切り取った時間だというイメージで設計したのが「FLASH」です。柱や、天井にぶら下がっている大きいペンダントライトも、4つだと割り切れてしまうので3つにしています。たくさん設置した電球照明を点けると、欄間のガラスによって虚像として見えた時にはさらに反復して永遠に続いているように見えます。

素材を活かした建材の使い方を教えてください。

「3F」のシャワー室にFRP防水塗料を採用しました。昔から学校のプールの水色の空間が好きで、水が入っていてもいなくても、汚しても濡らしてもよい「大きな容れ物」という印象がありました。「3F」のシャワー室は洗濯室や脱衣室も兼ねていて広く、タイルではコストに合わないためFRP防水塗料をそのまま仕上げに採用しました。空間全体をプールのような質感を持った有彩色で仕上げようと考え、施主が好きな色を選択。塗料の色味や質感、耐水・耐久性によって、家の中にプールを持ったような特別な感覚を与えてくれたと同時に、独特の凹凸感もそのまま現れ、ツルツルとした鍾乳洞のような水の似合う空間を生み出してくれました。

ガラスにどんな役割を与えてみたいですか?

透過と反射という、ガラス特有の2つの効果を引き出せる使い方をしたいですね。ガラスは「そこに無いように見えるけどある」もので、とても魅惑的な素材だと思っています。人を映り込ませることもできるし、ガラスの手前にある像と向こう側にある像を重ねることもできる。また、透過率は高いけれど100%透過するわけではないので、ガラスをたくさん重ねて不透明にすることもできる。そういったガラスだからこそ可能なアイデアはたくさんあるので、ただ透かすだけでなく、それを超えた使い方ができたら面白いだろうな、と思います。

 

会員様から募集した質問を建築家に取材しました。

湯浅良介氏からの回答

Q. 新しいアイデアやスタイルは、どのように着想されますか?

A. 普段から何かしら本を読むようにしていますが、読みながら気になる箇所があればメモを残しています。同じように、映画や雑誌やテレビを見ているときでも、気になるものがあれば写真をとったりスケッチとして残しています。その時はなぜそれが気になっているのか自分でもわかっていなくても、それを続けているとその時期に自分の興味が向いていることや考え続けていることの答えとなってくれるものが見えてきます。そしてその状態でスケッチや図面を描きながら設計をしていると、そういった自分自身の関心事だったり大切にしたい、表したいと思っているものが設計物に現れてくるのではないかと思っています。そのため僕の設計はとても個人的で主観的なものに基づいているとも思いますし、そういったことを大切にしたいとも思っています。

Q. アイデアに行き詰まったとき、どのように気分転換していますか?

A. カフェでお茶をするか映画を観ることが多いと思います。趣味と呼べるものが特になく、独立してからは休日といったものも特に設けていないので、毎日の活動の中でカフェに行ってお茶をする時間、もしくは映画を見る時間が自分にとっては息抜きであり集中できる時間でもあります。映画館の中で映画を見ながら手元を見ずに手帳にスケッチやメモをとっていることもあります。ただ、多くの設計の仕事はクライアントがいて敷地や既存空間や与件があった上で行われるので、行き詰まるという感覚はあまりなく、最初の直感で考えたものの方向性の妥当性や精度の上げ方について客観的になる時間をどう作るか、ということのために気分転換や集中する時間が必要になると思っています。そのための感度を高めるために緊張を解きたいのだと思います。

Q. 影響を受けた本はありますか?

A. たくさんあります。今も新しい本を読みながら影響を受け続けています。これまでの中で特に記憶に残っているもので言えば、マックスエルンストのコラージュ集、ミヒャエル・エンデやサン=テグジュペリの絵本、佐内正史やウォルフガング・ティルマンスの写真集、谷郁雄や茨木のり子、山村暮鳥の詩集、などに影響を受けていると思います。

Q. 湯浅さんの心惹かれた建築があれば教えてほしいです。

A. 記憶の中にずっと残り自分の設計に影響を与えていると思うのは祖父母の家です。群馬県にある町の診療所が併設された二階建ての木造建築ですが、中庭や井戸、縁側や大広間、応接間など一つの兼用住宅の中に様々な場所があり、夏休みなどの帰省の時には外に遊びにも行かず家の中だけで十分な遊び場でした。その中には怖くて入れない部屋や入ってはいけない部屋など、家の中に怖い場所がある、ということが子供の自分の心を掴んでいたと思います。そしてそういった空間は誰かにとって特別なものになりうると思っています。

Q. 新築と改修で設計時に意識している事の違いがあれば教えてほしいです。

A. 新築は更地の状態から地面に立ち上がるということが、当たり前のことですが改修とは大きく違います。そのことは地球上にある限られた地面との調停作業のような意識があると思います。ゲニウスロキという言葉がありますが、そういったその土地固有である地面とのつながりを考える、ということかもしれません。改修はそこにすでにある空間と空気感をどう読み解きどう変えるかといったところでは、新築の際の、立ち上がり方や佇まい、地面(地球)との調停ということよりもより空間の表層を覆う構成物と生身の人間との関係性について集中して考えているかもしれません。ただ、そういった両者の違いについては設計する際には特に意識はしておらず、改めて、あえて言葉にすれば、といった程度です。

Q. 影響を受けた本はありますか?

A. たくさんあります。今も新しい本を読みながら影響を受け続けています。これまでの中で特に記憶に残っているもので言えば、マックスエルンストのコラージュ集、ミヒャエル・エンデやサン=テグジュペリの絵本、佐内正史やウォルフガング・ティルマンスの写真集、谷郁雄や茨木のり子、山村暮鳥の詩集、などに影響を受けていると思います。

Q. 建築学生です!これからの目標や、新しく始めようとしている活動などあれば教えていただきたいです!

A. 今年と来年に個展を予定しているのですが、その時に建築のプロジェクトを展示するのではない方法で建築や空間を設計している身として表現できることは何かを考えています。おそらくそれを考えることやアウトプットすることは自分にとっての専門性や取り扱う領域について声明を出すことに近いと感じています。普段大学で学生に接する機会も多いため、そういった自分自身の専門性や領域について形や言葉で提示することが必要だと思っていました。そうすることで接する学生からしてもこの人は何に重きを置いている人かわかった上で話を聞くことができると思うからです。そして、表明した自分の関心事についてより深めるために勉強しそれを設計で実践するというように、思考と設計のフィードバックを行いながら設計活動をしていきたいと思っています。それにより、学生のみなさんが大学で行っている課題や考えている建築的な概念と、実際に1/1として立ち現れる建築や空間が地続きなものなのだと示せるとも思っています。

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