人々が行き交う日常に、温かみをもたらす建材
美波町医療保健センター
生活の余白に溶け込む地域の新しい拠り所
徳島県美波町は太平洋側に位置する、海運・漁業が発達した街だ。海にもほど近い場所に建つ「美波町医療保健センター」は、町の診療所と保健センターに民間の透析クリニックを加えた医療・福祉の複合施設として2017年に完成した。この場所は、今後起こるといわれている南海トラフ地震の際、津波の浸水被害が予想されている。当初はこの建物を高台に建設する計画もあったが、超高齢化が進む美波町では、「診療所は誰もがすぐに行ける場所にあるべき」という町民の声もあり、人口が密集する住宅地にある高校の跡地が建設場所に選ばれた。
建物の1階は災害時に津波や浮遊物を受け流せるよう高さ3mの天井を持つピロティになっており、建物の主要な機能はすべて2階に集めた。災害という非日常に備えた施設ではあるが、強い構造体を持ちながらも内部の空間は県産材を取り入れたやわらかい空間になっている。また、建物に隣接するグラウンドや公園、遊歩道とゆるやかにつながるよう一体的に整備し、地域の住民が日常的に集うことのできる公共空間となった。
完成して2年以上が経った現在、「美波町医療保健センター」は地域の健康を支える拠点としてはもちろん、ピロティは散歩時の休憩場所として、また自由に通り抜けられる公園の一部としても多くの町民に親しまれている。非常時も日常も、町の生活を支える「大らかな余白」のような空間としてあることが大切なのではないかと川口氏と鄭氏は語ってくれた。
美波町医療保健センター
所在地 / 徳島県海部郡美波町
設計 / 川口 有子 + 鄭 仁愉 (カワグチテイ建築計画)
撮影 / 太田 拓実