2017年3月、大阪府の護岸整備事業として木津川沿いに完成した「トコトコダンダン」は、河川の氾濫から街を守る堤防であると同時に、広場と遊歩道を擁する住民の憩いの場でもある。このプロジェクトでは住民との関わりが当初から意図され、行政の土木事業としては異例の、参加資格を問わないデザインコンペによって岩瀬氏が選ばれた。岩瀬氏の提案の中心は、水際に向かって段々畑のようにゆるやかに降下していく構造物だ。水はけの良いポーラスコンクリートや、安全性と透明感を兼ね備えた柵を用い、住民が好きな場所で水辺を楽しみくつろげる「居場所としての堤防」を実現した。
地盤改良から始まった工事の中盤で、既存図面になかったカミソリ堤防が地面から姿を現したのだという。その堤防は8mという根入れの深さから撤去ができず計画の変更を強いられたという岩瀬氏。しかし、このカミソリ堤防が人々を守り続けたからこそ、水辺と街の関係を再構成する今回の試みが実現しているのだと感謝をもって受け止めた。かつての堤防は、現在もメイン入口に象徴的に佇んでいる。「『トコトコダンダン』の親水護岸は日々の水位変化が体感としてわかるほか、ゴミが流れ着く時もあります。その様子を否定的に語る方もいますが、“実際はあるのに、ないように見せる”考え方には限界があると感じます。私たちを取り巻く環境のことを少しでも考えたり、知るきっかけになってほしいという思いがありました」と岩瀬氏は語った。
子どもたちが笑顔でリズミカルに歩く響きをイメージして名付けられた「トコトコダンダン」。完成後も地域と行政が連携して維持管理に努め、楽器の練習やヨガなど思い思いに過ごす人々の姿も見られるようになった。官と民、土木と建築、防災施設と居場所。境界をほどいたことで街に新たな景色がもたらされ、水とともに生きる場が育まれている。