2021年7月、のどかな田園地帯が残る神奈川県中郡大磯の新興住宅地の一画に、湯浅良介氏が従兄弟のために設計した住宅「FLASH」が竣工した。宙へ向かい上下に開いた庇と屋根を持つ白い外観はいわゆる「家」の形からは逸脱しており、「人が持つ既存のイメージにアプローチする」という設計テーマ*¹の片鱗がうかがえる。この佇まいは単なるデザインではなく、宅地の要件と施主の要望を満たしていった結果生まれたものだ。敷地周辺は第一種低層住居地域で、隣家との間隔や家のボリューム等に定めがある。その定めに従い、最初に家の位置と床面積、2階の窓の位置を決定。「屋根のある、車1台分の駐車場がほしい」という施主の要望に応えて1階の庇を跳ね出し、軒下を駐車場とした。2階の窓の上は「庇を設けると、どうしてもそれが“機能”に見えてしまう」と考えた湯浅氏。そこで窓上部を跳ね上げることで、庇の機能は果たしながらもその存在を意識させず、建築と一体化させることに成功した。
「FLASH」の構造に目を移すと、限られた予算の中で既製品を巧みに使い住宅を完成させた湯浅氏の創造性が見てとれる。日本の建材では一般的な910mm×1820mmのモジュールを基本に、455mmの立方体のグリッドを敷地上に架空に敷いて設計を進めた。それにより既製品をほぼそのままの寸法で使用できる実利的なメリットが生まれたと同時に、ドローイングをひたすら描いてから寸法を与える湯浅氏の設計手法ともマッチした。その設計の過程は「作曲家が五線譜から自在に音楽をつくり出すことにも似ているかもしれない」と湯浅氏は語る。
「FLASH」という名に込めた意味の一つは「瞬間」*²。リズムを刻み音階を奏でるように室内に繰り返される柱、照明、フック。瞬間が連なることで紡がれる永い時間の一部が、空間としてここに立ち現れている。
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