【カーテン】
「FLASH」の窓に対して施主から寄せられたのは「外の光を透過して室内から外の景色が見えつつ、外から室内は見られたくない」という要望だった。これに応えるにはカーテンという括りに囚われずあらゆる素材や方法を選択肢に入れる必要があると感じた湯浅氏は、テキスタイルデザイナーの堤有希氏に依頼。1階をぐるりと囲む窓には、光の透け方が異なる縞模様のレース生地を2連のレールに経(たて)と緯(よこ)の方向にそれぞれ吊るした。2枚を組み合わせることで格子状の模様をなし、外の様子が見える効果がありながら外からは内部が見えずプライバシーを守れる状態が成立した。風に揺れるたびに模様と影が変化し、どちらか1枚を引けば採光や透過の加減も容易だ。この格子模様のモチーフは、キッチンに設置した不燃素材のアルミのカーテンや、寝室に設置したワッフル素材のカーテンにも引き継がれている。
素材の特徴を現象に引き上げる
堤さんは僕が助手を務める東京藝術大学の先端藝術表現科の大学院生だった方で、独立当初からお仕事を依頼しています。「FLASH」には1階の全ての居室に窓があります。それは閉塞感を拭うためだったり、庭の様子を感じられるようにするために出した答えでしたが、やはり住宅であるため中が見えすぎないようにする必要もありました。この一見矛盾する要求に対して堤さんが提示したのがグリッドという構成。それは僕が「FLASH」で行っていた概念的な所作とも通じており、全てを掬い上げながら要求にも完璧に答えたことに驚きました。堤さんは、素材の特徴をその構成によって現象にまで引き上げてくれる方です。今後もどんな空間にどんな回答をされていくのか楽しみに思っています。
建材開発秘話
堤有希さん
建築の中の一つのリズムとして
建具・外壁・板幅などマテリアルごとのピッチなどから柱を起点として動いているイメージを持ち、カーテンも「FLASH」の中の一つのリズムであることを目指しました。縞模様は連続する一定のリズムが永遠に続きます。「縞を置きたい」と早い段階でイメージできました。厚地とレースという一般的なカーテンのあり方ではなく、2枚のテキスタイルと建築との必然的な関係性を見出せたことは嬉しかったです。キッチンのテキスタイルは平織りのように織り込み、グリッドが強調されています。
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テキスタイルデザイナー 堤有希氏の特徴
武蔵野美術大学でテキスタイルデザインを学んだ後、株式会社布にて経験を積み、独立と同時に東京藝術大学大学院へ進学。空間と素材の可能性を探求し続けている。
厚地とレースという一般的なカーテンの在り方に基づいたコーディネートではなく、建築物の概念に共鳴する布の在り方を思考し、マテリアルから構成方法まで提案。
採光の調整やプライバシー保護のために行うカーテンの開け閉めといった日常的な行為によって模様や影が変化するなど、空間に現象を起こす布の魅力を引き出す。